エピローグ とある騎士の冒険譚
貴族に虐げられていた下級兵士と断罪された追放令嬢が西へと向かい姿を消してから暫くの月日が過ぎた。
ここはかつて王都と呼ばれた場所。
いまでは隣国が治める地方都市となっている。
この国にどのような悲劇が降り掛かったのか?
吟遊詩人がその悲劇を詩にして朗々と謳い上げる。
突如として発生した
伝え聞くはその活躍により魔物達の軍勢は王都に迫るも見事打ち払われたとのことだ。
しかし、その半ば二人の王子と共に王国最強の騎士、それに重鎮子息達の多くが若き命を落とした。
その事実に国王は心労により倒れ、暫く後に息を引き取りこの国には王族の血が途絶える事となる。
それが新たなる悲劇を呼んだ。
貴族達は我こそが後継者だと各地で蜂起し国は荒れる。
その混乱は隣国による周辺地域の平和と言うを大義名分を与える結果となった。
かくして隣国は軍勢を率いて王国へと攻め込み戦乱は拡大し各地は戦火に見舞われる事となる。
だが、それほどの争いがこの地で繰り広げられようとも不思議と民衆達への被害は少なかったと言う。
それは何故か?
この地方都市にはこの国を襲った悲劇を伝える詩の他に、西から流れてきた吟遊詩人が謳うある人物を讃える詩が流行っていた。
その詩は数十篇に及ぶ冒険譚。
東から流れてきた魔剣を携えし旅の剣士が様々な冒険の末、西の果てに在ると或る王国の騎士となる。
そこで彼は数々の武功を上げ、やがては騎士団長にまで登り詰めると言う立身出世の夢物語だ。
吟遊詩人は謳う、彼の冒険を。
吟遊詩人は讃える、彼の武勇を。
吟遊詩人は伝える、彼が弱き者達の剣であり盾である事を。
そしてこの街の人達は知っている。
先の戦で自分達民衆がなぜ無事だったのかを。
それは、その剣士が愚かな争い繰り広げる貴族達から救ってくれたからだと。
彼は声を上げる事の出来ない自分達に代わり、その身を賭して戦い護ってくれたのだと。
そして戦が終わった後、彼は再び西へと旅立って行った。
民衆達は声を上げる、彼が弱き者達の剣であり盾であり、そして自分達声無き者の代弁者だと。
その声はやがて吟遊詩人によって彼の冒険譚に加えられることになる。
そしてこの大陸全土へ広がって行くのだった。
その詩を聞いた若者は彼に憧れ、彼の様になりたいと旅立つ者も少なくない。
彼の意思は詩となって永く人々の心に刻まれていく事になる。
数有る彼を讃える詩には必ずある一節で締められている。
それは次のような言葉だ。
『彼の功績は一人で成した物ではない。
彼の横には絶えず彼を支える黒曜石の様な美しい黒髪を湛えた、女神の様に美しい妻の姿があった。
彼らは手を取り合い如何なる困難をも打ち破る。
あぁ、神よ、二人の旅に祝福を』と――。
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