073-3本目

 私は広場の中央に向かいながら状況を観察する。中央には槍を2本持った黒鎧がフードローブの集団と戦っている。時間稼ぎなのかうかつに手が出せないのかは判断がつかないけど、牽制のしあいで膠着状態になっていた。ここはもう少し持ちそうですね……。


 回りに目をやると、騎士団が三人一組でグールのような四つん這いで素早く動く気味の悪い魔物と戦っている。同じような集団がいくつかあった。中には首がないものや上半身だけで動いているものなどもいた。動いているグールは12匹で騎士団は三人一組の班が6班で形成はかなり悪いようだ。


  私はこの魔物の動き方を見て前世でプレイしたホラーゲームの敵を思い出した。脳からの命令でなく神経系に直接遠隔から電気信号を送り無理やり筋肉を動かしているという設定だった。そのため頭が弱点とはならず四肢をすべて胴体から切り離すことでようやく動きを止められるという敵だった。


 もしかしたらホラーゲームと同じ手順で効率的に対処できるかもしれないと考える。このグールのような魔物は、バランス感覚が乏しく二足歩行は殆どできない。噛みつきと爪による切り裂きが主だった攻撃でそれに注意しながら腕を潰せれば動きがかなり遅くなる。


「騎士団のみなさん胴体への攻撃は無意味です!歯と爪に注意して腕、頭、脚の順で胴から切り離してください!」


 私は指示を終えると次元リュックから幅広の剣であるクレイモアを取り出し近くの集団へと突撃する。


 私が近くに行くとグールの一体が標的をこちらに変え飛びかかってきた。


「意識はなくても警戒するべきなのが誰かはわかっているようね!」


 飛びかかってきたグールに斬撃を合わせると、剣は左の首筋から斜めに入り右脇を通り抜ける。腕一本と首を同時に刈り取った。


 ミノタウロスより骨が細いので剣が折れることはなさそうでよかったわ。そう思いながら再び跳ぼうとしているグールの腕を切り落とした。脚だけで這いずっているコイツはもう攻撃することもできなそうだ。しかし念のためこの気持ち悪い物体から最後の部位を切り離しとどめを刺した。


 一匹始末し終えると3対1になった班が見事に一匹退治していた。


「やるじゃない!」

「副団長の様態は!?」


 私の賞賛を無視してラーバルのことを聞いてきた。自分たちの手柄より仲間の心配をする騎士団の仲間意識にぐっと来たが今はそんな感傷に浸っている場合じゃないわね。


「ラーバルはアリッサが治療してるわ、時間がかかるみたいだけどもう平気よ」

「治癒姫様が!?わかりました!我々はこのまま広場を左回りに救援に行きます。慈愛の薔薇様は右回りにお願いします!」


 そう言って走り出した騎士団員の背中を見送る……。あの通り名止めて欲しい……人の噂も75日……もうすぐ……消えるはず?


「っ!変なこと考えてる場合じゃないわ!」


 私は指示に従って広場を右回りで救援に向かう。次の集団ではグールが騎士団を無視して両方共私に飛びかかってきたが一匹は先ほどと同じように袈裟斬りで腕と首を同時に奪いもう一匹は蹴り飛ばして騎士団の前に転がし仕留めてもらった。


 処理を終えると騎士団員には左回りでの救助を頼み私は右回りに進む。3班目の救援を終えるとグールと班の数が6に揃い騎士団員から「グールはもう我々で対処できます!中央の奴をお願いします!」そう頼まれて私は中央のフードローブ集団の戦闘に加わる。


「トレイルの方々ですよね?私も手助けしますわ!」

「姫!お手お煩わせて申し訳ありません……」


 姫……私はお父様の部下たちにそんな呼ばれ方していたのですね……。なんでみんな普通に名前で呼んでくれないの?でも今はそんな事を言ってる暇は無いわね……。


 クレイモアを構え黒鎧へと斬りかかる。私の斬撃は2本の槍により軌道を少しずらされ相手に当てることが出来ない。めげずに何度も切り付けるが全てほんの少し軌道をずらされまったく当てることができない。


「やりづらい相手ですね……」


 私は気にせずそのまま剣を振る、何度弾かれようが振り続ける。相手が反撃に出ようとするその瞬間まで剣を振るう。黒鎧はついにしびれを切らして受け流すことを止めて槍一本で受け止めると、もう一本の槍を私の腹めがけて突き出そうとしている。


 私は剣に体重をかけ体を浮かせると、相手の胸に前蹴りを食らわせて黒鎧を仰向きに倒した。


「あら?足癖が悪い剣士と戦うのは初めてだったみたいね?」


 そう言い放つと黒鎧の頭部に向けて全力でクレイモアを振り下ろした。


 ガキィン!と金属と金属がぶつかり合う激しい音が響いた。


 黒鎧の兜は少しへこんでいる。


 へこんだぐらいであんな音するかしら?


 私はアロイーンさんにもらった私の手に握られているクレイモアに目線を移す。


 兜と接触したと思われるところには大きくヒビが入っていた。いや未だにヒビが進んでいる。


 あああああ!


 ヒビが刀身を渡り切ると私のクレイモアは静かに息を引き取るように剣先がポロリと落ちた。


「んんーもおおおおおおおおおお!」


 冒険家人生1ヶ月にして3本目の剣が折れた。怒りに任せて拳を振るう時が訪れた。


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