057-アロイーン 激闘

 回復班を置いていっても平気かと聞いた俺にアリッサ隊長は「私がいるから大丈夫だと思うよ~」と気の抜けるような返事をした。自分たちの部隊より防魔軍の犠牲のほうが心配なようだ。それは騎士団も同じらしくラーバル隊長も「回復はアリッサに任せておけば平気です」と厚い信頼を寄せている。


 配置が完了し魔王軍と対峙する。遠くまで見渡せる広い草原にはスマッシュエイプやロックウルフなど獣型の魔物をメインに1500匹はいるように見える。対するこちらは騎士団100名、魔術師団100名、防魔軍500名と数では2倍以上の開きがある。防魔軍の一般兵だとスマッシュエイプを倒すのに3人はかかりそうだと思うと戦力差は厳しい。先行部隊と言っていたから王は後詰めが到着するまで持ちこたえられれば良いと考えたのだろう。


 騎士団と魔術師団の混成200名の部隊は攻撃隊としアリッサ隊長の指揮で動く。


「勇者さんは騎士団に混じり攻撃の指示に従ってください。聖女さんは勇者さんの回復に専念してください」


 俺とリーシャーは「分かりました」と言って騎士団へと合流した。隊長は城を落とすと言っていたがそれ程に実力があるのか?そんな疑問は開戦してすぐに吹き飛ばされることになる。


「攻撃部隊は一直線に魔王城へと向かいます!こちらに向ってくる魔物は蹴散らし領地に向かう魔物は防魔軍に任せます。それでは進軍開始!」


 魔王城へ向けて歩を進めるとついに魔物たちは動きだした。


「魔物が来るよ!土魔法班!防壁展開!」


 何もなかった草原に土でできた防壁が突如現れた。手前は傾斜になっていて登れるようになっているが向こう側は切り立った壁となっている。勢いづいた魔物は壁に阻まれ足を止めるが後ろからの勢いは止まらず壁際にどんどん密集していき魔物は身動きが取れなくなった。


「魔術師団!攻撃開始!」


 アリッサ隊長の指示で防壁の上から様々な属性の攻撃魔法が放たれ身動き取れない魔物を一方的に駆逐していった。魔術師の戦い方は凄い……剣では到底太刀打ち出来ないのではないかと思ってしまった。


 しかしそれもまた間違いであった。


「防壁撤去!騎士団前へ!残りを掃討して!」


 防壁が地面に吸い込まれるように消えるとかなりの数の魔物が始末されていた。


「アロイーンにリーシャー!しっかりついてきなさい!」


 ラーバル隊長は先ほどまでの柔らかい表情とは一変し鋭い目つきに変わっていた。先頭を走り魔物の群れに切り込んで行く!


「疾風迅雷!」


 ラーバル隊長がそう叫ぶと体中に風をまとい信じられないスピードで魔物を切り裂いていく。それに続いて騎士団も魔物の群れへと切り込んで行く。


「リーシャー!行こう!」

「わかった!」


 リーシャーを連れて魔物の群れへと入り込み無我夢中で聖剣を振るい魔物を切りとばしていく。同時に何匹もの魔物と戦うのは難しく捌ききれずに何度かダメージを負ってしまうが、回復に専念してくれるリーシャーから[ヒール]がかけられそのまま戦い続けることができラーバル隊長になんとかついていけている。俺は、勇者だとはいっても所詮付け焼き刃だな……無傷のラーバル隊長をみてそれがはっきりとわかった。


 初動で動いた魔物はすぐに狩り終えた。落ち着いたところで周りを確認した。ラーバル隊長を除いた騎士団員たちは負傷しているものが多かった。


「癒しの光よ騎士に纏え」


 アリッサ隊長が杖を掲げ聞き慣れない詠唱で大人数の騎士を一度に回復すると「凄い……あの規模であの回復スピード……」とリーシャーは驚いていた。隊長二人が使う魔法は俺がよく知っているものとは全く違っていた。


 俺たちはそのまま進軍し魔王城を目指した。横をすり抜ける魔物は魔防軍に任せて正面の敵だけを切り崩していく。魔術師団の援護を受けながら進みついに魔王城の前まで到達した。


 「城前を死守!土魔法班!防壁展開!魔物を入れるな!」


 城の前を土壁が囲み周りの魔物の侵入を防ぐ。一箇所だけ壁がない細道がありそこに魔術師団が魔法を打ち込み魔物の数を減らして突破してきた魔物を騎士団が始末している。


「安定したね~ここは私が守ってるからラーバルと勇者と聖女は魔王倒してきて~」

「わかりましたアロイーン!リーシャー!行きますよ!」


 まさに扉を蹴破ろうとした瞬間「ヒャヒャヒャヒャヒャ」と気味の悪い笑い声が響く。


「今度こそ聖女を連れていきますよ!」


 気味の悪い笑い声を発しながら道化の格好をした魔物が現れた。魔王の副官と名乗りニーニャ様とマルレさんを攫ったやつだ。


「奴は瞬間移動します!注意してください!」


 俺が注意を促すと同時に奴は黒い霧へと姿を変え霧散していた。見るのは二度目だ!今度は現れる位置も分かっている!すばやくリーシャーの手を引き抱き寄せると先ほどまで彼女がいた場所に収束し始めた黒い霧に向かって聖剣を振り下ろす。


 鎧が体の動きを教えてくれたときのように聖剣から頭の中に声が響く。


 <<重さを開放せよ……叫べ[グラビティー・スラッシュ]と>>


 実体化した道化の魔物に聖剣が当たる瞬間を狙い聖剣の重さを開放する。


「グラビティー・スラッシュ!」


 聖剣は引き抜く前のグレーに変色し剣撃にとてつもない重さを加えていく。


 振り抜いた聖剣はやすやすと道化の魔物を両断し勢い余って地面まで到達すると爆発のような轟音を上げて辺りを吹き飛ばした。


「うわっ!何だこれ!」


 自分がやったことに誰よりも自分自身が一番驚いた。周囲の地面はえぐれ道化の魔物は綺麗に縦半分になっていた。キョロキョロと目が動いていたが、すぐに光を失い絶命したのを確認した。


「アロイーン凄い……」


 抱きかかえたリーシャーは頬を赤らめ俺を見上げていた。リーシャーを田舎娘呼ばわりした魔物はもういない。またオロオロされても困るのでちゃんと伝えておこう。


「俺はリーシャーが世界で一番聖女にふさわしいと思ってるよ」


 彼女は上機嫌に目を細め「ありがと」と言うと俺の首に手を絡めてそっと頬に口づけした。


「え?え?リーシャー?何してるの!?」

「ちょっとしたお礼よ……」


 今まで意識したことなかったがリーシャーも女の子なんだよな……と思った途端に2人きりで野山を駆け回っていたことや聖剣を探して旅してきたことがおかしなことに思えてきた。いかに自分が無神経な振る舞いをしてきたのかと思ったらなんだか申し訳なくなってきた。


「私も一人の女だってやっと分かってくれたみたいね!」


 バッチリ顔に出ていたようで簡単に心を読まれてしまった。


「なんか……ごめんな……」

「いいよ別に分かってくれたから許してあげる!」


 抱き寄せたリーシャーとじっと目を合わせる……お互いの顔の距離が近づく……視線が唇へと移る……。




「「いちゃついてないで魔王を倒しにいけ!」」


 怒りに満ちた隊長2人からの怒号で我に返った。


 今は戦闘の真っ最中だった……


 尋常ではない怒りをむき出しにした2人は禍々しいオーラを放っていた。 


 俺は死ぬかもしれない……魔物ではなく隊長たちに始末されて……。


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