025-エンド・オブ・ブラッド
駆けつけた盗賊を手前から順に殴り飛ばしていく。右側にいるやつは右の裏拳で、左側にいるやつは右フックで……。
私は正確に一撃であごを砕いていく。3人目が振り下ろす剣は、掲げた左腕の皮膚すら切り裂けずに阻まれる。「ガキン!」と人と剣の接触では出るはずのない音と、振り抜けなかったことで3人目の動きが固まった。その
4人目が慌てて奥に逃げる。
「あと13人」
私は、走らずゆっくりと赤い蒸気を発しながら、狭い洞くつを進み大きめの空間に出る。先程逃した盗賊が敵襲を伝えたようで、盗賊3人が机を倒し盾にし、その奥で弓を構えていた。
放て! の合図とともに矢が放たれる。ゆっくりに感じる矢を手ではたき落とす。矢をつがえる暇を与えず距離を詰める。机ごと彼らを蹴り飛ばし、壁と机で盗賊をぜいたくに3人も使った盗賊サンドを作る。
「あと10人」
逃した盗賊の「敵襲! 敵襲!」との叫びが奥へと消えていく。
代わりに来たのは、柄の長い大きな
振りかぶったものが途中で急に止まり、
私はその二人の背中を平手で思い切り押し地面に
「あと8人」
通路をまたゆっくり進み別の空間へと進む。洞くつに似合わない装飾のついた椅子に座る人物と周りに7人合計8人の男が見える。
「あなたがアキューレですね?」
「おまえは一体何者だ! なぜここを襲う」
「八つ当たりですわ」
とんでもない理由に声を失なう盗賊たち。自分たちがしてきた理不尽を気にしない彼らでも、自分たちに降りかかる理不尽には身が縮むらしい。
認識できないほどのスピードで、素早く二人の胸ぐらをつかみあげる。そして、別の二人に投げつけまたたく間に4人片付ける。
「あと4人」
「うわあああああ!」という情けない叫び声を上げて二人の剣使いが、襲いかかってくる。私は、攻撃を避けずに両肩で受け止め恐怖を刷り込む。
硬いものを切りつけた感触と、赤い霧を放つ無傷の私を見た彼らは恐怖におびえ尻餅をつく。彼らは「死ぬ覚悟は、できたかしら?」私の質問に意識を手放すことで答えた。
「あと2人」
そう言っただけで、敵襲と騒ぎたてていた盗賊が意識を失った。
「あと1人」
腰が抜けて「来るな! 来るな!」と叫びながら無闇矢鱈と剣を振り回すアキューレだけが残った。
後ろに気配を感じて振り向くと、引きつった顔の仲間たちがいました。
「お嬢、やりすぎでしょ……」
「あら? 遅かったのねファーダ、全部終わってしまいましたよ?」
「遅かったって……。怒りの原因が自分たちだと思うと、止めるの無理でしょ……」
「でしたら、さっさとその腰抜けを捕縛しなさい!」
「わかりましたよ……」
壊滅した盗賊団は縛り上げられ、1カ所に集められた。護送が来るまでみなで監視することになった。盗賊たちは、追い詰められた小動物のようになっていた。さすがにやりすぎたと思った私は、彼らが
「みなさま、ちょっとはしゃぎすぎたおわびに、これから仲間にあなたたちの治療を頼みます。ですが、逃げたり抵抗したりするのは、止めていただきたいのだけどよろしいかしら?」
すごい勢いで首を縦に振る盗賊たち。その様子に安心してアリッサに治療を頼む。
「アリッサ彼らの治療をお願い!」
「はい! 分かりました! 喜んでやらせていただきます!」
言葉遣いがおかしいですね……。はじめての戦いで緊張したのかしら? これは落ち着かせるべきね。
「アリッサもう敵はいませんから、落ち着いてくださいね」
「あの……その、わかった! 私に任せてマルレ!」
アリッサが盗賊たちに杖を向け呪文を唱える。
「広がれ
朝日が差し込んだような黄金の輝きが、辺りを漂い盗賊たちを
「おお! 骨折が治った!」「すごい! いつもより調子がいいくらいだ!」「ありがとうございます」
これは? 前世の記録にある看護師がモテるって現象と同じかしら? 悪漢がまるで少年のようだわ。
「治ったようですね。では護送が来るまでおとなしくお待ちいただけますね?」
急に静かになると盗賊たち……。そこまで静かにしなくてもいいのになんか知らないけど落ち込みますわね……。そんなことを考えていると声をかけられた。
私の正面に立ったガオゴウレンさんの手が両肩に添えられる。
「おい! マルレリンド、すごいなおまえ! 強すぎだぜ!」
身長による高低差で見下ろしながら褒められた。
「そうですか? ありがとうございます」
少し落ち込んでいた私は褒められると素直にうれしくなる。ガオゴウレンさんの顔を見上げながら自然に笑みがこぼれた。
なぜか、ガオゴウレンさんが目を見開いている。
「…………」
謎の沈黙に首をかしげて聞いてみた。
「どうかいたしました?」
「ほれた! 俺と付き合ってくれ!」
「……?」
頭の中を言葉がグルグル回る。
自分には関係ないような、どこかでずっと待ってたような不思議な言葉に頭が、ボーっとする。
考えがまとまらない。
「ほれた? つきあう?」
機能停止寸前の脳は、オウム返しが精一杯だった。
「おい! 貴様! マルレは私の婚約者だ今すぐ手を離せ!」
助かった! アークが割り込んで来たとき私はそう思った。
「ん? マルレリンドは本当に殿下の婚約者なのか?」
私の顔をみて聞いてくる。言葉に詰まり、コクンと、うなずいた。
「殿下のこと好きなのか?」
なんてことを聞くのかしら! これはどちらの答えでも危険な質問だわ!
「わかりません……」
苦し紛れに答える。とにかくこの場をやり過ごす! 後のことは落ち着いてから考えましょう!
「じゃあ、まだチャンスは、あるってことだな」
「あるわけ無いだろ!」
「どうかな? 即断らない感じは親たちが決めただけって感じだろ?」
混乱しているところに残りの3人が割って入る。
「二人共落ち着いてよ~、こんなところでする話じゃないよ!」
「そうです! まだ作戦中なのに何をやっているんですかあなた方は!」
アリッサとラーバルが止めに入った。
「お嬢! 顔が真っ赤ですよ! おもしろ過ぎでしょ!」
ファーダがおなかを抱えて笑っている……。
自分の顔に触れ頬が熱いのを実感しすると恥ずかしさと怒りがこみ上げてきた。
大変なことになってるのに面白いですって!? こいつは私の本当の気持ちも知らないで!!
「何を面白がってるのよ! このバカ!」
肩に添えられたままのガオゴウレンさんの手を振りほどく。そして、ファーダの首根っこを捕まえようと追っかけ回す。すばしっこく動き回るファーダに苦戦していると護送部隊が到着し馬鹿騒ぎは終りを迎えた。
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