もう一度。あの人と

@yumiking

第1話 プロローグ

もう一度…あの人と

                

【儚い】という言葉の意味を知った。

“彼女”の透けてしまいそうなほど白い肌と雪よりも白い髪この世の全てを見透かしているかのような青と灰色の目。

今、この瞬間、霧になって消えてしまいそうだった。


「消えないで…」


そう呟いて手を伸ばしていた。

思わずこんなことをしてしまうほどに“彼女”は儚くて美しかった……


「…ん…ゃん…ちゃん…にいちゃん‼︎」

と呼ばれて俺、乾 慶斗(16歳)は目を覚ます。また…あの人の夢を見ていた。いつの記憶だっただろう…とか考えていると

「にいちゃんってば!早くしてよ!キャッチボールするって約束したじゃん!」

弟の貴人(6歳)が俺の上で跳ねる。

「分かった!分かった!すぐ行くから下で待ってろ…」

「もう!はやくしてよね!」

そう言って貴人はドタバタと音を立てて階段を降りていった。日曜日の朝っぱらから元気なやつだ…てか、まだ7時じゃねぇか!もう少し寝たかったなぁとか思いながらジャージに着替えて下に降りる。

「お兄ちゃんどっか行くのー?こんな時間から」

妹の蛍雪(13歳)スマホをいじりながら聞いてきた。

「おう。貴人とキャッチボールしてくるわー」

「ふーーん、いってらー」

いや、興味ないんかーい!興味ないなら聞くなよ!とか『おはよう』ぐらい言えよ!とか言ってやろうとしたら

「にいちゃんてば!何してんの!早くしてよ!」

待ちきれず貴人が叫ぶ。ヤッベ!早くいかねぇと貴人がキレる!

「悪い!悪い!すぐ行くわ〜、じゃあな蛍ちゃん♡」

さっき思ってた文句を込めて呼んでやったぜ!

「いってらっしゃ……!って『蛍ちゃん』って何!やめてよ!」

なんか蛍雪が言ってた気がするが聞こえないふりして俺は貴人とキャッチボールをしに行った。


「貴人!こい!」

「いっくぞー!」

俺の家からだいたい5〜8分くらいの距離の公園でキャッチボールをする。広いグラウンドとたくさんの遊具この町で1番デカい公園だ。なんと!このマジでデカい公園を貴人と二人で貸し切り状態。この上なく豪華だ。

「おぉ!貴人、投げるの上手くなったなあ!」

「でしょ!お父さんに投げ方教えてもらったのー!」

ああー親父かぁ〜俺の親父はまぁ…普通のサラリーマンとは言えない。中学、高校で野球をしていて全国優勝も何度もしている元エースだった。投げても一流、打っても一流、守らせても一流だった。そんな親父がなぜプロにならなかったのかそれは簡単。お袋に惚れたから。不安定なプロの世界ではなく安定したサラリーマンになったんだと。って俺の親の馴れ初めはいいとして…

「そっか!いい球だったぜ!野球チーム入らないのか?」

「うーん、悩んでる。」

「え?何を悩むことがあるんだよ?」

「チームに入ったら…言われるもん…」

「何を?」

「『あのお父さんの息子なんだからうまいに決まってる』とか…」

「なんだ…そんなことか、」

「そんなことじゃないよ!」

と貴人は目に涙を溜めて叫ぶ。

「悪い!そう言うつもりじゃなくてだな…なんだ…その…親父と貴人は別人だ。何もかもが同じなわけない。現に俺だって野球してないけど『親父の息子だから…』なんて言われたことない。本当にスポーツできる奴ってのはそんなこと言わない。そんなこと言う奴は自分に自信がないヘタレだけだよ。もし言われたって心の中で『このヘタレめ、そんなこと思う暇があるから練習しろ』って思やぁいい。だろ?」

「うん!そうだね!ありがとう!にいちゃん!」

「おう!そろそろ飯の時間だな帰るか!」

「お腹すいたー!帰ろー」

貴人もまだ一年生なのにいろいろ抱えてんだなぁなんて思いながら家に帰って行った。


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