world:00 閑話
第53.5話・ヒトの利点
大自然の中、生身のまま迎える夜は何となく心もとない。家も壁もテントすらない開けた場所で、焚火一つだけのサバイバルキャンプ状態だ。不安だらけだけどそれでも良い面はあって、とにかく夜空が美しい。
「汚れた心が浄化されていく気分やで~」
〔八白亜紀、あなたの心は真っ黒ですからね〕
「ひと言多いって。つか、
〔あら、私が居なくなったら、あなたはこの白亜紀で行きて行けるのですか?〕
……ウチを脅迫してきやがった、ちくせう。それでもなんだかんだ言いながら、この夜空一面に広がる大パノラマの迫力には感じ入るものがあったのだろう。ウチの肩に乗って大人しく見上げ始めた。
「この時代でも南十字星ってあるんだな」
なんとなく夜空を指差し、四つの星を繋げて十字を作ってみた。
「亜紀っち、なんか面白いもん見えるのか?」
ティラノが不思議そうな顔で声をかけて来た。星を繋ぐ行動にどんな意味があるのか気になったのだろう。
「あ~、いや、面白いって言うかさ。星を見ていたんだ」
夜空にキラキラと光る数多の星。令和の空と比べるのも申し訳ない位、星々が煌々と輝いていた。街の光もなければ建物もない。更には大気も澄み渡っていて、天体観測が好きな人なら一生住みたくなる環境なのだろう。
「星かぁ。流石の俺様でもあいつらには届かねえからな」
夜空に向かって手の平を広げ、つかみ取る様に握りしめるティラノ。
「でも、いつか届かせてみてぇぜ!」
「だなぁ……」
ま、一億五千万年くらい待てば行ける様になるで~。と言おうと思ったが流石に無粋だと思って言葉を飲み込むウチ。大人の貫禄ってやつだ、と自己満足。
「あの南十字星……あ、あそこの明るい星を繋ぐと十字になるでしょ?」
「おう、あの強そうな奴な!」
「つ、強そうかどうかは知らないけどさ、あの星がある方角が南だとか知ることも出来るんだよ」
その一言を聞いて、ティラノは目をパチクリさせた。あれ、何かウチおかしなこと言ったかな?
「なあ、亜紀っち。方角って、必要なのか?」
「そりゃ必要でしょうよ。『駅の南口で待ち合わせね~』とかさ」
「南……口?」
「あ、いや、すまん」
白亜紀に南口とかないもんな。そもそも彼女達は方角を気にして生きている訳じゃないし。
「ま、まあ、人に物事を伝える時には使うといいよ。『北にある煙を吹いている山』とか言えばウチにも即わかるし」
「なんかさ、人間って不便なのな」
「え、そうなの?」
「どっちいきゃいいかなんて、勘でわかるだろ」
……いや、わかんね。
「や、野生の勘ってやつかな?」
「お、おう。そういうもんなのか」
「そういうもんなのです。ヒトの利点は言葉でコミュニケーションがとれるところなんやで!」
ちょっと難しい顔をしながら悩み始めたティラノ。まだヒトになって日が浅い
〔ティラノさん、悩む事はありませんよ〕
「そうそう。悩むことないって!」
〔そこにいる八白亜紀は……〕
ウチをネタに軽くこき下ろして笑いを誘いつつテンションを上げようという作戦か。意外と心の機微がわかる女神さんなんだな。
〔友達も恋人もいない真性ボッチですから、人とのコミュニケーションなんてまったくわかっていませんよ?〕
……笑えねぇよ。
――――――――――――――――――――――――――――
※南十字星、他
地球と他天体の位置関係は刻々と変わっています。とは言っても数十万年単位の話ですが。その為白亜紀の地球からは南十字星が十字だった保証はありません。「もしかしたら丁度十字だったかも?」ってくらいに思っていただけると幸いです。
ちなみに天体好きの友人曰く「6万5千年前なら地軸のずれで日本からでも南十字星が見えたので、1億4500万年前から8000万続いた白亜紀中に見えなかったということは無いのではないか。保証は出来ないが」だそうです。
(考察:友人K&T)
ご覧いただきありがとうございます。
この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!
☆とかレビューもよろしければ是非。
この先も、続けてお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます