第161話・当然ばい。

 己の力に絶対的な自信を持つカルノタウルスと、解放ドラゴニック•バースして飛躍的に能力が上がったミノタウロス。この二人の力量は拮抗し、お互いに決めきれない状況が続く。


〔カルノ、大口叩く割りには情けないのう。わしと交代するか?〕

〔ぬかせ。我輩は楽しんでおるのだよ〕

 煽ってくるダスプレトサウルスを軽く受け流すカルノタウルス。味方を煽る事で鼓舞しようという狙いなのは誰が観ても明らかだった。

〔さて、そろそろ互いに本気をだそうじゃないか、ジェントルメン〕

 大戦斧の柄と柄を合わせ、全力で押し合うミノタウロスとカルノタウルス。X字に交差した柄の間からお互いの視線がぶつかり合う。 

「ほう、やっと尻に火がついたか!」

 その時、二人に向かって崩壊しはじめた巨大な骨が倒れ込んで来た。咄嗟にバックステップを踏み距離を取ってかわすミノタウロス。“ガランガラン”というけたたましい音を響かせながら粉々に壊れていく遺骨。砂埃や骨灰が舞い上がり、周囲一帯完全に視界がゼロになった。

「げほっ……何も見えねぇ」

「ごれば目を開げでいられないぞ」

 ティラノとウェアウルフは、突然発生した埃に包み込まれてしまっていた。戦いをしっかり見ようと身を乗り出していた事があだとなった様だ。

〔主ら甘いのう。見えずともあ奴らの闘気を感じ取るのじゃ。さすれば……ぶおっほっ〕

「……大爺おじじっち、むせてんじゃねぇか」

 危険を察知して下がり、しっかりと距離をとっていたのはアクロとメデューサ、そしてリザードマンの三人。

「あげんとこいたら当然ばいね」

「あらあら、大変ざますわ」

 埃が届かない位置にのんびりと腰を落ち着けて、むせて悶えるティラノ達を生暖かい目で見守っていた。



 埃の中で打ち合う音が断続的に聞こえてくる。お互いに相手の闘気を探り、重い一撃を叩き込み、躱し、反撃を試みているのだろう。暗闇での戦闘と何ら変わる事が無い視界ゼロの状況で、それでも相手を求め大戦斧を振り下ろしていた。

〔やるなジェントルメン。だが、まだ甘い!〕 

「ふんっ、見掛け倒しか? お主。ワシが求めるのはその程度の力ではないぞ!」

〔くく、言いおる〕

 ティラノ達からしてみたら、姿が見えずに楽しそうな会話だけが聞こえてくるのだから心中穏やかではない。

「なんだよ~、声しかきこえてこねぇぞ」

「ぞれも嬉じぞうな声だよな」

 なんとなくだが戦っている二人の場所は解る。しかし、どんな攻撃があってどんな防御をしたのか、観たいものが見えないモヤモヤが募っていった。

 それでもここは壁が見えない位の大空間だ。突発的に起こった粉塵は少しずつ治まり、段々と視界が開けて行った。

「おいおい、マジかよ……」

〔いったじゃろ、大孫娘。折り紙付きの強さじゃと〕


 ――そこに見えたのは、片膝をつくミノタウロスの姿だった。


「ボロボロじゃねぇか……おいミノっち、しっかりしろよ!」

 相当激しい打ち合いだったのだろう、ミノタウロスもカルノタウルスも身体中傷だらけだ。

 更に、ミノタウロスの大戦斧は刃毀はこぼれまで視認出来るくらい大きく欠けていた。どうやら解放ドラゴニック・バースしたパワーに耐えられなかったらしい。

 それとは逆に、カルノタウルスが握る大戦斧は傷一つなく輝きを放っている。ミノタウロスが求める武器は、まさしく彼の持つその一本なのは間違いがないだろう。


 ふう……と一息吐くと柄を握りしめ、杖代わりにして立ち上がるミノタウロス。

「当たりまえだ、こんなところで負ける訳にはいかぬ。ワシの目標はお前ともう一度戦う事だからな」

 ティラノに向かってニヤリと笑うミノタウロス。本来の姿であるイケメンフェイスから、白い歯がキラリと光った。

「だが……」

 ミノタウロスはカルノタウルスに視線を戻しながら、ボロボロの大戦斧を構え直した。

「今はこやつとの戦いを楽しむ時だ!」

〔よいよい。ではここで少しルールを変えようか、ジェントルメン。我輩からこの斧を奪って見せよ。さすればこれはお主の物だ〕

 ミノタウロス程ではないにしても、カルノタウルスも満身創痍には違いがない。それでも英霊としての余裕を見せる為なのか、大戦斧を地面に突き刺した。これは、この先素手で相手をするという意思表示だ。

〔まあ、奪えればの話だがな〕


「ほう、いいのか? ……そんな簡単な条件で」






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