第129話・夕陽の……

 まてまてまて。紫が毒ってのはわかる、ゲームでも紫色の敵は大抵毒持ちだ。そして黄色が麻痺や痺れってのもなんとなく感覚でわからなくもない。しかし……赤? 赤ってなんだよ。ヤバそうな予感しかないぞ。

 リコりんが撃ち放った赤い玉は十数メートル上がった所で破裂し、そこから赤色の光が辺り一面に降り注いだ。


「え……ま、て……まて……な、んか痺れ……が、つよ……く、なって……な、いか?」

「しゃ……べる、の、が……キツ、イっ……ス……」


 なんだよこの赤の効果って。麻痺が強化されているじゃないか。普段、力が有り余っているルカですら話すのがキツそうだ。


「赤は他の玉の効果アップなのですぅ~。毒だって二倍のマシマシダメージですよぉ~」


 マジか、このってばデバフ(注)撒き散らしながら効果アップまで出来るのか……めちゃ強力なスキルだな。攻撃範囲を上手く調整すれば、戦わずして勝てる作戦も立てられそうだ。

 ……って、今はそれどころじゃない。このまま放置してたらマジでスーがヤバイぞ。効果二倍の毒なんて、すでにヘロヘロの彼女には致命的だ。


「さあ~て、とどめの四発目行きますよぉ~!」


 わからん。マジでこの娘の思考がわからん。ウチの恐竜人ライズなら『殺さずの精神』を持っているはずなのに何故こうなるんだ? 確かに、いきなりあんな凶悪な技を喰らったら頭に来るのは理解するけど……。

「最後は緑で行きましょう。ふふふ……この緑ってアメーバみたいな色ですねぇ」


 だめだ、もうなにも考えられん。効果マシマシ黄色の麻痺弾が、身体の自由どころか思考まで止めているようにも思えて来た。


 美しい海と輝く太陽の元、砂浜にうっしている恐竜人ライズと魔族。身じろぐことしか出来ないウチ達を意にも介さず、リコりんは緑のカートリッジを拳銃に装填し、赤玉の時と同じように頭上に向けて撃ち放った。赤玉が破裂した辺りまで上がると、緑玉は空中に制止、そこから緑の液体がシャワーの様に降り注いできた。

 


 それはしばらくの間続き、そのドーム状のエリア内にいる者はみんな……



「いや~、なんか“暖かい光”が見えやがりましたデスぜ」


 なにごともなかったの様に立ち上がり、腰に手をあてて元気いっぱいに笑っているスー。


「いや~、これ凄いッスね。三日くらい寝た後の感じっス」

「うむ、体力も気力も回復したでござる」


 ルカもドライアドも、『信じられない』と言った様子で手を握ったりひらいたりして身体の動きを確認していた。


「緑は、なんかもういろいろ回復する感じの玉ですよぉ~。今なら赤で効果二倍ですぅ~」

〔あら、あっという間に回復してしまいましたわね。もうちょっと観ていたかったのですが……残念です〕


 運よく黄色の範囲外にいた女神さんは、ウチ達が焦り藻掻もがいているのをしっかりと観察していた様だ。……って『残念』じゃないっての。 


 リコりんの言う通り、緑のシャワーは毒も麻痺も全て回復し、オマケに体力や蓄積疲労まで全快させる効果があった。緑はラミアの『とりまこみこみヒール』と同等以上の効果を範囲でかけられるみたいだ。

「それ、弱点なんてあるの?」


 ここまで万能だと、制限とかあってもおかしくないんだよな。無条件に最強ですってのは実際ありえないのだから。


「そうですねぇ。一回使ったカートリッジわ24時間待たないと使えないかな~」

「同じ色の連射は出来ないってことか」


 これは使い所を見極める必要がありそうだ。今みたいに紫や黄色と赤色のコンボで対軍兵器になるけど、生物ではないスケルトンやゴーレムには効果なさそうだからな。


「あと、同時に効果が出るのわぁ、最後に撃った玉を入れて二種類までですよぉ~」


 二種類まで? 赤を入れて二種類ってことだよね。


 ……あれ?


「って、ああ、そうか。これはやられた!」

「姐さんどうしたんスか?」


 リコりん、この娘はデバフ以外に


「紫の毒から黄色の麻痺って撃ったでしょ? その次の赤を撃った時に、紫の効果は消えているってことだよね」

「亜紀チャン正解ですぅ~」


 赤を撃つときに言った『毒も二倍』という言葉に完全に騙された。あれは効果を説明しただけで、スーにかかっている毒が二倍になるなんてひと言も言っていない。

 赤を撃った時点で紫の毒効果が消え、黄色の麻痺が強化される。そして緑の回復を撃った時に黄色が消えて、赤と緑で二倍の回復効果がかかる。


「完全に騙されたわ。スーちゃんがやばいって滅茶苦茶焦ったもの」 

「姐さんを騙すなんて、リコりん、やるっスね!」


 素直に関心するルカと、まんざらでもない照れた笑顔を浮かべるリコりん。うん、なんか可愛いぞ。


〔更には転生者の魔法耐性も貫通していましたね〕

「あ……そういえば」


 言われてみればそうだな、リコりんのカートリッジは魔法とはまた別の事象なのか? ……ま、この辺りの考察は鑑識アンジーに丸投げしてやろう。


「つか、リコりん、心臓に悪いって」

「え~、わかっていたら意味ないですぅ」

「いや、驚かす必要が……」

「あるに決まっているじゃないですかぁ~」 


 やはりこれは、レックス・カタストロフィに巻き込まれた復讐か。のんびり泳いでいた所にいきなりあの技が飛んで来たら、そりゃ仕返ししたくもなるよな。


「安心させたら計算が合いませんから。これで合ったった~」


「う~ん……この娘、とんでもないガンマンだぞ」

 





world:08 あの娘どこの娘チートの娘 (完)

――――――――――――――――――――――――――――

(注)デバフ:対象の能力を弱体化させる効果の事。 ゲーム等でよく使われる。


※リコりんの最後のセリフは、映画【夕日のガンマン】のオマージュです。


ご覧いただきありがとうございます。

この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!

☆とかレビューもよろしければ是非。

この先も、続けてお付き合いください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る