world:08 あの娘どこの娘チートの娘

第112話・まさかの……四人目!?

「……あの洞窟です」

 海岸沿いを丸一日北上した河口付近。迷う事もなく目的地に着いたウチらの視界の中には、縛られて岩壁にもたれかかっているドライアドとセイレーンがいた。そしてすぐ近くに魔王軍。一人は幻体のグレムリン、もう一人は子供の様にも見える、黒ローブの小人。そして相変わらずの、三メートル級ストーンゴーレムが見えるだけで五体。

「おかしい……」

「どうしたんスか? 姐さん」

「副官のケルピーってのが見えないんだよね。どこかに潜んでいるのかな?」

「水中じゃないっスか?」

「うん、ウチもそう思う。……さて、どういう作戦で行こうか」


 ちなみに今の位置取りは悪くない。距離はかなりあるけど、隠れている岩から正面にドライアドとセイレーン、更に奥の方に河口が見える。そして左側は一面の海だ。

「自分が海からまわりこみましょうか?」

 と、機動性に優れたサポートを申し出るスピノサウルスのピノ。アンジーが推薦した二人目のだ。

 考えてみれば、この娘とまともに話すのは初めてだった。彼女からしてみても、いきなり猫玉アタックで突き飛ばしてきた相手ヤツとしか印象がないと思う。

 新生からアンジーへとライズマスターが変わって、しばらくはアンジーのトレーニング漬けの日々。とてもじゃないけどコミュニケーション取るどころじゃなかったし。

 だからこの娘が“いぶし銀の渋さで職人仕事をするタイプ”だなんて、今回初めて知ったんだ。あの頃の新生は『スピノ』と呼んでいたけど、アンジーは『この娘のちゃんとした名前はピノちゃんだよ』と言っていた。

 海のごとき青色の髪を後ろでまとめ、考古学者が着る様なシャツに膝丈のベージュパンツ姿。幅広の帽子が似合う、秀才肌の恐竜人ライズだ。ここにハンマー持たせたら『化石掘っています』とか言われても何の違和感もないだろう。


「ピノちゃんの言うとおり、海から河口に回り込んで部長(ドライアド)達を救出するって作戦は凄くいいと思う。だけど問題は、ウチ達の動きがすでに補足されている可能性があるって事なんだ」

「危険は覚悟の上です」

「ただね、ケルピーの姿が見えないのがちょっと不安なんだよ」

 魔王軍がウチらを補足するための要素。それは魔力なのか、はたまたガイアみたいにマナ的な何かなのか。いずれにしてもあの時海岸にいた者は何かのデータをもとに補足されていると考えられる。だからこれを逆手に取って、うまく敵を誘導しつつ救出と鎮圧を同時に行うのが理想だな。


「基本的に、敵に動きがバレている前提で行動する事。ウチとハーピーが正面からグレムリンの注意を引き付けるから、その隙にピノちゃんとスーちゃんの水棲(注)コンビは“お互いに距離を取って”海から回り込んで」

「わかりました」

「最優先は部長(ドライアド)達の救出だからね。順番間違えない様に」

「任されやがりますよ!」

 あの時海岸にいなかった恐竜人ライズ。つまり、魔王軍に補足されていない可能性が高い“ルカとスー”が切り札だ。

「ピノちゃん。海から回り込むとして、奥に見える河口までどのくらいで行けそう?」

「五分くらいですね。ここから海に入るまでの時間込みで」

 明確な時間提示をしてくれるのは性格所以なのだろうね。こういうの作戦が立てやすいから助かる。まあ……時計なんてないから感覚で動くしかないけど。


「じゃ、作戦なんだけどさ。まずピノちゃんスーちゃんは海から河口に回る。その際、二人は離れて移動してね。ピノちゃんは敵に補足されている前提で警戒しまくりマクリスティで!」

「……」

 キョトンとした目でウチを見てくるピノ。

「え、と……警戒しっかりね、ピノちゃん」

「はあ、了解です」

 うう、ツッコミを教えておいてくれ、アンジー。

「も、もし襲撃されたらすぐに上陸する事。その時はウチ達と合流」

「わかりました」


「スーちゃんはピノちゃんを視認しつつ、敵に見つからない様に。もしピノちゃんが襲撃されても、自分だけは河口にたどり着く覚悟でよろしく」

「わかりましたでございますデスよ! 縛られ好きな二人を救出して差し上げてしまうデスぞ!」

 ……縛られ好きかどうかは置いといて、作戦の意図は伝わった様だ。ピノを囮として使うのは申し訳ないけど、現状の作戦としてはこれがベストだろう。


「ルカちゃん、大人しく静かに全力疾走で、ゴーレムの裏手に回り込んで待機。魔王軍がゴーレムを動かそうとしたら思いっきり突っ込んでインパクトブチかまして。もちろん伏兵には最大限警戒をしまくりマク……しまくってね!」

「了解っス!」

「とりあえずまとめて壊してくれると助かるから、今回は全力パンチで全裸になっても許す」

「マジっスか~。解禁あざっス!!」

 嬉しそうやなぁ……。ってここで脱ぎ始めるな! 


「ウチとハーピーは正面から行って、奴らの気を引くよ。何かあったら逃げていいから。戦おうと思わないでね」

「わ、わかりました……でも、戦います。逃げません」

 ハーピーって凄く仲間想いなのね。セイレーンがヤバかった時も必死だったし。フワフワしている印象だけど、すごくいい。これもドライアドの影響なのかな?


 魔王軍に見つからない様に、三人がそれぞれ動き始めた時だ。黒ローブの小人が立ち上がり、ウチらが隠れている岩を凝視してきた。間違いなく警戒を強めている。

「やっぱり、ばれてるぽいな~」

 そしてその小人……いや、フードを取ったそのには、ウチと同じ猫耳があった。最初は遠目でわからなかったが、黒い尻尾もある。


 ――紛れもなく、猫人だ。


「あれはまさか……四人目の転移者なのか? だとしたら何で魔王軍に!?」






――――――――――――――――――――――――――――

キャライメージ画

ピノ→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330653489363796


(注)スピノサウルスは、半水棲恐竜という説が有力の様です。ワニや亀に近いという研究結果も。ちなみに日本でも福井県で化石の一部が発見されています。


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