第111話・託す相手

「ドライアド様が、セイレーンが……お願い、助けて!」

 目が覚め、開口一番がこの救助要請だった。


 ハーピーの説明によると、あの後ドライアド達は魔王軍に戻らず、海岸沿いを北に進んだ河口付近を拠点にしていたらしい。洞窟状にえぐれた岩場を寝床にし、その日暮らしを続けていた。

 そんな隠遁生活とも言える場所を急襲したのが魔王軍だった。指揮官は毛玉、つまり、またあのグレムリンの幻体アストラル・ボディ。そして他に、副官が二名とゴーレムが何体かいたという話だ。

 副官の一人はケルピーというらしい。こいつがかなり強く、魔王軍ではドライアドと同等の実力だとか。そしてもう一人、初めて見る“黒ローブの小人”がいたそうだ。


「何で部長(ドライアド)が魔王軍に襲われるんだ……」

 と、素直な疑問を口にするウチ。考えなしの発言だったけど、全力で戦った仲間を襲うとか、敵の事情なのに滅茶苦茶腹が立ってしまったんだ。

「裏切ったと思われているとか?」

「だとしても、理由も聞かずに襲ってくるとかムカつかない?」

 襲われた理由についてはハーピーもまったくわからないそうだ。まあ、当たり前だよな。わかっているのなら、簡単に襲撃なんて受けないだろうし。

 ……しかし、話の中で、一人だけ限りなく黒に近い者がいた。

「そのちっこいのが“インプ”って線はないの?」

「黒ローブは大人しかったから、それはないと思います」

 まあ、ハーピーに言われるまでもなく、その辺りは解っていたけど。アイツだったら、大人しく控えているなんてありえないからな。

 海岸での戦いの後、インプは行方をくらました。最初はドライアドに従っていたけど、洞窟に腰を落ち着けてからすぐに姿が見えなくなったらしい。


 ここからはアンジーの考察だ。居場所が補足されていたのは、新生やアンジーの恐竜人ライズ達、そしてウチと数名の恐竜人ライズ。ここで考えるべきは、という点。

 魔王軍に補足されていた者は、あの時海岸で戦っていたメンバーだけだ。そしてドライアドとの決着がついた後にアンジーが登場。その時点でデータが取られなかったという事は、その場にいないか、もしくはデータが取れる状況になかった者、つまりは意識がなかった者だ。

 ――あの時、インプだけが気絶していた。

「インプが個体データをグレムリンに提供して、八白さんや恐竜人ライズ達を補足していると考えるのが妥当だね」

「それにインプが犯人だとしたら、部長(ドライアド)達の居場所が魔王軍にばれていても不思議じゃないよな」

「そうね。あと、ラミア死亡の嘘情報を流したのもインプじゃないかな」

 確かにアンジーの言う通り、ウチがラミアを殺したなんてとんでもない嘘を広げられるのは、状況的にインプしかいない。


「あの、ドライアド様を……」

「大丈夫、安心していいよ」

「ドライアドとセイレーンは、私と八白さんをおびき出すための囮だから。殺される可能性はまずないよ」

 とは言え行動は急がないとだ。敵が誰かわからないし、アンジーを戦わせるわけにはいかない。相手は三人って話だけど、ドライアドを制圧したりハーピーをわざと逃がしたりする余裕があるって事だから、甘く見る訳にはいかない。

「解放しているかもしれないしね。ここはウチとルカちゃん、それから……」

「八白さん、スーを一緒に連れて行って」

「ああ、そうか。場所が場所なだけにスーちゃんなら活躍してくれそうだね」

「うん、ケルピーってね、水中も得意な奴だから」

〔ケルト伝承にある水棲馬の名称ですね〕

 せっかくの女神さんの補足だけど……ケルト伝承なんて名前しか聞いた事ないぞ。

「う、馬が泳ぐの……?」

「普段は大体そんな感じかな。ただ、ケルピーは馬にもヒトにもなれるから結構厄介だよ。まあ、戦う時は人型だろうけど」

 う~む……馬のマスクを被った芸人を思い出してしまった。


「まあ、連れて行って欲しいのは後々の事を考えて。って意味も含めてだよ」

 アンジーは自分が消えた後の事を言っているのだろう。“魔力が尽きたら異世界に引き戻される”もしそうなった場合、アンジーの恐竜人ライズ達はウチが預かる約束だ。

「わかった。海岸沿いを北上しなきゃだから、海の家に寄っていくよ」

「……ありがとう」

 淡水と海水が混ざる河口付近なら、水棲恐竜サルコスクスのスーにとっては水を得た魚の様に……いや、水を得たワニか、実力を発揮してくれるだろう。


「亜紀ぴ、私もいくよ」

ミアぴ(ラミア)?」

「ヒール使える私が行った方がいいっしょ」

「回復役がいてくれるのは心強いんだけどさ、ミアぴ(ラミア)にはしっぽの家を頼みたいんだ」

 アンジーは海の家の防衛がある。そしてウチは遠征する。そしたらしっぽの家は……

「ここ、新生ねおたんに防衛任せようと思っているからさ。ミアぴ(ラミア)、サポートしてあげてくれないかな?」

「おい、マジかよ。聞いてねぇぞ」

「今言ったじゃないか」

 目を丸くする新生。“物事を任せられる”って現状は、本人にとって余程意外な事だったのだろうな。

「って、八白さん、大丈夫なの?」

「ウチの恐竜人ライズちゃん達がいるんだ。大丈夫。心配はしてないよ」

 ぶっちゃけると、防衛は恐竜人ライズ達だけで十分だと思っている。だけど、アンジーから『消えるかもしれない』って話を聞いた時に、ちょっと考えてしまったんだ。


 ――もしウチに何かあった時、恐竜人ライズ達は誰に託せばいいんだろう? って。


 だから、アンジーがウチとスーに“そうするように”、新生とウチのライズ達が連携を取れるようにしておきたいって思ったんだ。

「回復はアンジーにポーション貰っていくとして、あと一手あると戦略立てやすいんだけどな」


「それならさ。もう一人、私の恐竜人ライズから連れて行ってくれないかな? 多分、八白さんが欲しているだよ」

 





world:07 旅立ち人質マブのダチ (完)

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