11 立ち入るべからず

「あと、針だけど」

「は、はい」


 ロビンが小夜せれなをその鋭く青い目で見据みすえて言う。

 ツッコミの様子からして、そんなに気難しいわけではないということは、小夜せれなにもわかるが、その目つきの悪さで受ける印象はぬぐいきれない。


「安全性に配慮した結果でセンセイはああ言ったけど、ほんとはもっと身近につけておきたいところだね」

「身近、ですか?」

「典拠としたい『古今著聞集ここんちょもんじゅう』だと襟元えりもとでしたっけ、針刺してたの」


 またポテトをつまんで口に運びながら、ひろが言う。


「せやね、昼寝しとった娘に蛇が飛びかかろうとしてる様子なのにいつまでたっても飛びかからへんから、追い払って娘を起こしたら、夢ん中で美青年に口説くどかれてたけど、その襟元えりもとの針が怖い言われて、フられたいうやつ。こういう魔除まよけって大事やねって結ばれとったな、あれ」

「蛇って、針を怖がるんですか?」


 小夜せれなの問いに、俗信のたぐいですけどね、とひろが口を開く。


「より正確にはかな、金属、特に鉄を嫌う、と言うんです。だから蛇けのまじないには鍛冶屋かじやの単語が出てくるものがあるぐらいです。後は、地面から出てきたちがやの針のような芽に刺されたところをわらびの芽に助けられた、という伝承もありますね。鉄という材質と針という形状、双方をして、蛇が苦手と考えられるものなわけです」


 そんな美味おいしいもの二つを足したら、より美味おいしいの逆みたいなのアリなのか、と小夜せれなはそれを聞いて思った。


「まあ、解説といってもこんなところか」

「そうですね、後は怖気おじけづかずに、断固として拒否の姿勢をつらぬいていただければ」

「アイツが保険かけよったから小夜せれなちゃんについては、十割成功やし、まず心配らへんな」


 そうすっかり終わったように口々に言われたので、小夜せれなはぽかんとしてしまった。

 本当にこれだけでいいと言うのか、と漠然とした不安感を覚えて、そしてあることに気付いた。


「あ、あの」

「うん? 小夜せれなちゃんもフライドポテト食べる?」


 そんな気の抜けた言葉と共に、まんだフライドポテトを差し出すよもぎに、そうじゃなくて、と小夜せれなは告げる。


「あの、最後に言わなきゃいけない、しもとゆう、って言うのは、わかってなくて、いいんですか?」


 フライドポテトをくわえたまま、一瞬ひろが動きを止めて、そして一度まばたきをしてから口を開く。


「いいですよ?」


 すっかり冷めただろう紅茶を、一口飲んでからロビンも続けて口を開いた。


「なんでもかんでも、知ってればいい、っていうことでもないからね」


 二人の言葉の裏には、強い不透明感と互いへの連帯感がただよっている。

 目配めくばせすらしていないというのに、二人ともが、ハナからまったく同じ見解を共有していることを示していて、そこによもぎが介入する様子を見せることもない。


 ――その言葉について、小夜せれなが何かを知る必要はまったくない。


 表面上、小夜せれなおもんぱかったような二人の言葉には、その言外の拒絶きょぜつがとても強く、色濃くにじみ出ていて、小夜せれなはそれ以上、追究ついきゅうすることはできなかった。

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