7 魂兮帰来

流石さすがにさっきの話と合わせるのはわかった? うん、まあ、そういうこと。死後の魂を現世に呼ぶのが招魂しょうこん魂招たままねき。逆にまだ生きている人の魂を呼ぶのは、魂呼たまよびとか、魂呼たまよばいと言って、特に対象者が危篤きとくの時に行う、死んで抜け出そうとする魂を呼び戻す所作しょさになる。まねくと呼ぶの違い、ということだね」

「……一応、とどめる、のもあるんですよね?」


 そう、最初この人は魂は「呼ぶか、まねくか、とどめるもの」と言ったのだ。

 じゃあ、当然とどめるものもあるのだろう。


「うん、ある。魂結たまむすび。あ、裁縫の玉結びじゃなくて、たましいを結ぶ魂結たまむすび。あくがれいづたましい遊離魂ゆうりこんを防ぐおまじないで、本来はまじない歌を唱えて着物のすそつまを結ぶんだけど、現代だと無理だね」


 そこまで聞いて、奈月なつきは首をかしげる。

 青年の方はその意味がわからないらしく、同じように首をかしげた。


「呼ぶのと、とどめるのの目的はわかったんですけど、まねくのにも、目的、あるんですよね?」

「うーん、あるか、ないか、だと、ある、ねえ」


 ただなー、今回なー、と何やらつぶやきつつ、青年はしぶっている。


「……うん、あるんだけど、まあ、お盆みたいなものなので」


 何やら歯切れも悪い。

 じっと見ていると、困惑した顔があきらめを浮かべて、それから今までで一番冷えた鋭い視線がこちらに向けられた。


「……好奇心は、九つの命を持つ猫をも殺す、よ?」


 美しすぎるのは普通のいきに収まらない。

 ――と、となえた張本人のすごみに奈月なつきは背筋がぞっとする。

 とはいえ心配してくれたのか、思わず足を止めた奈月なつきの顔色をうかがうように、打って変わった優しい目つきでのぞき込んできた。


おどすのは性に合わないんだけど、ごめんね、知らない方がいい」

「……わかりました」


 また、どちらともなく歩き出して、それから奈月なつきは青年を見上げて、ずっとつきまとっていた疑問を口にする。


「それで、その……私は、どうしたらいいんですか?」

「うん?」

「だって、この道から舗装されてるあたりまで、こんな長くないはずですもん」


 そう口にして、今まで気にしないようにしていた事が、全然些細ささいでなかったことに気が付く。

 自然と、肩にげていたトートバッグを握りしめていた。


流石さすがに気付くかあ。まあこのあたりの子だもんねえ」


 返ってきた声は予想外に腹が立つほど呑気だった。

 何本めかわからない、本当に存在してるか怪しい街灯の下で青年は立ち止まる。


「あの」

「うん、キミはマロンちゃんを呼んで、まねいてあげて」


 街灯を見上げて、こちらを見ずに青年は言うと、すうっと大きく息を吸った。


「ほーたるこーい、やまじをこーい、あんどんのあかりをちょいとみてこーい」


 独特な節の付け方から、それが歌だということが奈月なつきには分かった。

 最初の部分がほんの少しだけ、一般的に言う蛍の童謡とも似ている。

 それから、青年が奈月なつきの方を見る。

 その意を理解して、奈月なつきは困惑しつつも後ろを振り返らないようにしながら、口を開いた。


「マロン」


 生まれた時から一緒で、頭が良くて、怒られるのをわかってても、悪戯いたずらをしてはしょげていた。

 でも、取り返しの付かない悪戯いたずらはしたことがなかったのは、やっぱり賢い子だったんだろう。

 何度となく飛びつかれて、よだれでべたべたにされたけど、それだって今は懐かしくて。

 にじんだ暗闇を一条の蛍光が、まっすぐ奈月なつきの方に飛んできて、肩に止まった。


「マロン……?」


 返事をするようにちかちかと肩の蛍が点滅する。

 それからふらりと一度飛び立って、向かっていた方向へ直径五十センチばかりの円を描くと、また奈月なつきの肩に止まった。

 まるで、はしゃいだ勢いでぐるりと回ってそのまま飛びつく犬のように。


「それじゃ、行こうか」

「は、はい」


 目を細めた青年に、またうながされて、奈月なつきは歩を進め出した。

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