第38話 厄災との衝突

【断空‼︎】


【狐火‼︎】


ひたすらに俺はヨタカに向かい斬撃を放ち、回避する先を見通した顔面にセッカは炎を叩き込む。


【おかしいなぁ? ちゃんと攻撃は読んで回避をしてるし、パターン分けをして同じ回避方法にならないように分散してるのに……なぁ、セッカ? どうしてお前の攻撃は当たるんだ?】


巨大な火柱の直撃。


しかしヨタカの体は一度崩れはするものの、すぐに元の形へと戻ってしまい、余裕綽々の様子で首を傾げながらセッカへとそんな問いを投げ掛ける。


「はっ‼︎ 当然じゃろう? 回避パターンの分析とか、分散とか、ぽやっぽやのくせに内政だけはまともだったお父様の考えそうなことじゃ、一体どれほど我がお父様が大好きだったと思う! お父様の考えそうなこと、取りそうな行動、思考パターン、何年経とうが体に染み付いておるわ‼︎」


叫びながら火柱を叩きつけるセッカに、ヨタカは体を再生させながら芝居掛かったため息を漏らす。


【泣かせるねぇ、親子の絆が呪いを追い詰める。 いい御伽草子だよ。 ファザコンもここまでくると感動できるんだねぇ……でも残念、非常に残念だ、何度も何度も俺を焼こうがこの体は呪いの塊、燃やせるだけで人の恨みつらみがなかったことになるなら、世界中の人間はみんな放火魔になっているはずさ、あぁだからこそこの攻撃はまるで無意味、でも安心しろよセッカ、人間っていうのは無意味なものに価値や喜びを見いだせる生き物なんだろう? だったら今のお前はちゃんと人間をしているよ……あはははは】


「出来損ないが、今のうちにほざいておくが良いわ『紅蓮地獄‼︎』」


両手をかざし、ヨタカの足元から巨大な火炎を生み出し、セッカは周りの雨粒もろともヨタカを蒸発させる。

その火力に泥はなすすべもなく霧散するが。


【まだまだぁ‼︎】


それでもなお、あたりの泥が寄せ集まりヨタカは黄泉帰る。


「やれ‼︎ ルーシー‼︎」


だが、体を再構築するその一瞬だけ、ヨタカの動きは止まる。


その隙を狙い、剣聖のスキルが示すままに、呪いを両断する。


「これで終わりだ‼︎【我流・大演爪‼︎】」


歪み三里による神速の移動から、動きの止まったヨタカへ放つ全方位攻撃。


逃げ場などない、回避も不可能、自らが持てる最速をもって俺はヨタカに全てをぶつける。


だが。


【だから何度も言ってるだろ? 憎しみのせいで、太刀筋がダダ漏れだぞ?】


その、俺が持てる最高の一撃ですら……ヨタカを捉えることができなかった。


「何で……うわっ‼︎?」


腹部に響く鈍痛。


見れば地面から伸びたヨタカの足が、俺の腹部に突き刺さっている。


形を形成している最中だったのが不幸中の幸か、体を貫かれることこそなかったが。


俺はそのまま、吹き飛ばされ地面へと叩きつけられる。


「ルーシー‼︎?」


【何度も言わせんなよ速さじゃないんだって。 お前が剣聖のスキルで俺を殺せる切り方がわかるように、俺には人の憎悪や憎しみが読み取れる……同じ狐の尾を持ってるセッカならともかく、いかに剣聖だろうとそれだけ憎悪に塗れてりゃどれだけ早く剣を振れようとどこをどう切るか懇切丁寧に教えてもらってるようなもんだ。おまけにセッカの掛け声まであったとなりゃ、あらかじめ安全な場所に体を置いておけば良い……憎しみや恨みじゃ、呪いは殺せねえんだよ】


「ルーシー‼︎ 無事か‼︎?」


セッカの声に俺は途切れかけていた意識を取り戻し、よろよろと立ち上がる。


こんな時、ひ弱な自分の体が憎らしい……。


「けほっ……あぁ……なんとかな」


【まだ立つか……ははは、かわいそうな奴だよ、ルーシー。憎しみもなく、剣聖らしく空っぽのまんま戦ってりゃ、勝機なんていくらでもあっただろうに、持ち主に恵まれないと、いかな剣もなまくら同然だな】


挑発をするようにそう語るヨタカだが、俺はその言葉に首を振る。


「別に哀れまなくていいよ出来損ない……別に俺はアンタを倒すのが目的じゃない。憎しみを持って、アンタを惨めに終わらせるのが目的なんだ」


【随分と物騒だなぁ? それはお前の意思なのか?】


「どうだろうな、もしかしたらセッカに命令されてるから憎んでるのかもしれない。だけどそんなことはどうでもいいよ、だってどっちにしたって俺がお前を殺したいっていうのは本当なんだから」


俺は一拍呼吸を開けて、さらに出来損ないに斬りかかる。


もう何度攻撃を回避されたかはわからないが、それでも攻撃の手を止めるつもりはなかった。


【鈍い鈍い‼︎ 剣聖のスキルが泣いてるぞルーシー。 そんな攻撃が俺に当たるわけ……】


「よそ見をするな、我を見よ出来損ない‼︎ 貴様の相手は私だろうが‼︎『五連火柱‼︎』」


五つの炎の渦がヨタカを取り囲み飲み込む。


セッカの怒りに呼応するかのように、次第に炎は強くなっていき、飲み込まれたヨタカは音もなく蒸発をするが、すぐさまに体が再形成されていく。


【怒りで学習能力すらも失ったのかセッカ……何度やっても……む?】


しかし、その時始めてヨタカの余裕ぶった表情が歪む。


「ふっふふふ、貴様も人らしい表情ができるではないか、出来損ない」


見れば、体の際形成により身動きが取れなくなっている隙に、セッカはヨタカの狐の尾をつかんでいた。


【なるほど、御剣による器の破壊は諦めて、直接力の源である狐の尾を狙いに来たか……】


「あぁ、狐の尾がなくなれば貴様はただの汚泥に成り下がる。 ここで貴様を殺し、我がツキシロ家の悲願ここで達成してくれようぞ‼︎」


【―――っ‼︎?】


怒声とともにセッカは額に青筋を浮かべ、その狐の尾を引き抜こうとするが。


「‼︎? な、ぬ、抜けぬじゃと?」


狐の尾は抜けることなく、セッカは何度も狐の尾を引っ張るが、ビクともしない。


【着眼点は悪くない。 だが残念、お前のその作戦が有効なのは、狐(俺)の存在が表面化してない、つながりの弱い狐の尾だけだ……完全に取り込まれ、狐そのものとなった俺にはその手は通用しないし……狐を殺せるのは、剣聖だけだ】



ヨタカは嘲笑するように笑い、尻尾を掴むセッカの腕を振り払うと首を掴む。


「がっ‼︎?」


「セッカ‼︎?」




【頭の回転は早いのに往生際と運が悪いなセッカ‼︎ 憎しみで憎しみは潰せない、呪いで呪いは打ち消せない‼︎ 結局 混ざり合って巨大になるだけさ、お前がもうちょっと冷静で、お前の御剣がもうちょっと賢ければ俺を倒せたかもしれないのに、お前は憎しみを持って俺に挑んでしまった、お前は剣に憎しみを持てと命令してしまった‼︎ それだけで、その時点で、呪いそのものである俺には勝てねーんだよ‼︎ もがけばもがくほど深みにはまってく、それが厄ってもんだろうが‼︎】


「………っ」


俺は掴まれたセッカを助けようと剣を握るが。


【おっとぉ‼︎ 古典的すぎて言いたくないが動くなよぉ? お前の大事な大事なご主人さもの首が落ちるのはみたくはないだろ? 武器を捨てな‼︎ おっとお前の近くにじゃないぞ、すぐに拾えないように俺の方にだ‼︎】


「ぐっ‼︎?」


高らかに笑うヨタカに俺は言われた通り剣を捨てる。


【はっはははははは、そうそうそれで良いんだよ。人間はいつだってラブアンドピース、人を愛して絆を作って、そして呪(オレ)いが全てをぶっ壊す。バカだよなぁ、ここでセッカを見捨てれば、多少は長生きできるっていうのに。はっはははははは。さぁこれでチェックメイトだけど、ほかに何か手はあるのか? セッカ】


「……―――ッ」



【あん? 聞こえないぞぉ? 怖くて声も出ないかぁ?】


首を掴まれたまま、セッカを耳元まで近づけるヨタカ。


その下卑た瞳に俺は全身の血が逆流しそうな感覚をおぼえるが。


「たわけ……もちろん、あるに決まっておろう」


セッカはふてぶてしくヨタカの耳元でそう笑った。


【‼︎‼︎?】


『決戦凍氷‼︎ 改』


「これは……フェリアスの‼︎?」


大地に捨てたおっさんの剣から狐の尾が飛び出し……ヨタカの周り全てを一瞬にして氷河の時代へと逆行させる。


空から落ちる雨粒さえも凍りつき、先ほどまで火柱が上がっていた大地は代わりに氷柱が大地がめくりあげながら何本も生え、気がつけばその氷はセッカの体ごとヨタカの体を捉える。


【なっ‼︎? なななな、なんだこりゃあ‼︎ テメェ、いつの間に剣に細工してやがった‼︎】


驚きの声を上げるヨタカ、しかしセッカは氷に体を囚われながらも鼻を鳴らし。


「いつのまにって、最初からに決まっておろうが……いかに貴様が狐の尾を奪えるからといって、発現していない狐の尾を奪うことはできなかろう? あぁ、だからここぞという時まで温存しておいたのじゃ」


【ふざけんな‼︎? お前の体から出てる狐の尾はじゃあ何なんだよ‼︎?】


「露骨に一本たりなんだらいくらバカでも気がつくであろう。 魔力で勝手に作った偶像よ」


そういうと同時に、セッカは魔力を消したのか4本の狐の尾の一本が目の前で消滅する。


【いや、フェイクとかふざけんな‼︎? それじゃあお前は、戦いが始まる前からこの状況を予想してたってことだろう?】


俺の言葉にヨタカは首をかしげるが、セッカは悪辣な笑みを浮かべると。


「だから言ったじゃろうに? 手に取るようにわかるって」


そう言った。


大詰めである。


呪いの塊は氷により動きを止められ、セッカの体は震えながらもしっかりとヨタカを離すことはない。


【く、くそ‼︎? 離せ‼︎ 離しやがれ‼︎】


「離せと言われて話すバカがどこにおる……貴様はここでしまいじゃ……このままここで朽ち果てよ出来損ない‼︎ ルーシー、そのまま私ごとやれ‼︎」


セッカの言葉に、俺は無言のまま剣を構える。


その手にあるのは、ギルドマスターゲンゴロウの持っていた一振りの刀。


『断ちたいものを断ち、それ以外は斬らぬ。 剣は凶器にして暴力、切るものは問わぬ斬(ざん)の妖。 故に剣豪とは、その両腕のみで妖の手綱を操るものでなければならぬ。 それが出来ねば剣は己を、そして守りたかったはずのものさえ飲みこんで行く』


そんな言葉が俺の頭の中に思い起こされる。


そんなこと簡単だと、心の中で思った自分。


だけど、その言葉の真意を……俺は今更になって理解する。


力に飲み込まれたヨタカに、それを守れなかったことを後悔し続けたゲンゴロウ。


同じ思いをセッカにさせないように……同じことを繰り返さないように。


ゲンゴロウはセッカをずっと見守っていた。


そして……御剣である俺に、この剣を託したんだ。


「閃剣の明‼︎‼︎」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る