第17話人狼族の村の危機

幸い、ガルルガの怪我は大したこともなく。


気を失ったのも一時的のようで、ギルドが開店をするとほぼ同時に、ガルルガは眼を覚ます。


初めは気が動転をしていたような様子であったが、さすがは人狼族の族長と言ったところか、眼を覚ます頃にはすっかりと冷静さを取り戻しており、すぐさま俺とセッカはギルドマスターを交えてガルルガの話を聞く運びとなった。


「して、人狼族の村が化け物に飲み込まれたっていうのはどういうことですかな? ガルルガ殿」


厳しい視線を向け、セッカはいぶかしむような表情を向けてそう語る。


「わたしにも具体的なことはわかりませぬ。ですが、昨晩突如魔獣塊が人狼族の村に現れ、次々に村の人間を飲み込み始めたのです」


「なんと……人狼族の戦士は不在だったのですか?」


「もちろん村の人間も応戦をしたのですがまるで歯が立たず……こうして救援を求めにここへとやってきたのです。おそらく、森に潜んでいた魔獣塊の仕業でしょう。 近づかず、様子を見るようにと村人には伝えていたのですが……」


ガルルガは、ここにきた時の混乱ぶりが嘘のように、ハキハキと状況を伝えてくる。


だがその言葉に、セッカはニヤリと笑うと。


「のぉ族長殿。緊急事態であるなら、虚言は得策だとは思わぬのだが、どうだろうか?」


そう含み笑いを浮かべるセッカ。


その言葉に族長はギクリというような表情をうかべる。


「な、なんのことやら」


「そうかそうか……ならば教えるのだが、森の魔獣塊はすでに討伐を果たした。狐の尾はすでにこちらの手中にある」


その言葉に族長は驚愕したような表情で椅子から立ちあがり、吠える。


「なっ‼︎? ど、どういうことですかなセッカ殿‼︎ あれは我らと協力し……その力は我らに譲ると言ったではないですか‼︎?」


なるほど、あの時セッカが族長の家を訪ねていたのはそういうことか。


「もちろん約束は守ったぞ? 魔獣塊の討伐後、狐の尾の力は其方の村の住人に渡した。じゃが、それを捨てたのは其方らだ……我はその捨てられた狐の尾を保護した、それだけよ」


「なっ‼︎? 捨てた……て、まさか‼︎?」


ガルルガは驚愕をしたようにこちらを見る。


「え? 俺?」


きょとんとして俺はセッカとガルルガを見比べる。


「ま、ま、ま、まさかセッカ殿……天下無双の力を得られる九尾の力を、こ、このな、なりそこないに与えたというのですか‼︎?」


「うん、そうだな」


「貴様……まさかはじめから繋がっていたのか? こいつが追放されるようにお前が仕向けたんだろ‼︎? 違うか‼︎」


「勘違いするな、たしかに引き抜くつもりではあったが、こやつをけしかけたのは其方の息子があまりにもお粗末な嘘をつくからだ……魔獣塊の核を掲げてタイニードラゴンとは。くくく、今思い出しても笑いが溢れるわ」


二日酔いの不機嫌さも相まってセッカの性格の悪さはさらに際立つ。


「なっ……き、き、き、きっさまぁ‼︎? これはれっきとした同盟違反ではないか‼︎?」


「くふー、どこが同盟違反なのだ? 我は同盟通り、手に入れた九尾の尾を貴様らに譲渡した。 我は貴様の息子が垂れた嘘を看破しただけだし、その後の此奴と息子の喧嘩は我の預かり知るところではない。 たまたま偶然、譲渡した人間が村を追放された……だから拾った。自らの判断ミスを他人のせいにするのは良くないなぁガルルガ殿?」


「こ、この女……言わせておけば」


「それに……そんなことを言っていいのか? ガルルガ」


「ぬっ……‼︎?」


ひやりとした視線。

その瞳は人一人を殺せてしまえそうなほど鋭く。


その希薄に押されて、激昂をしたガルルガは気圧される。


「貴様は確かに同盟を結ぶ際……魔獣塊は森にしかないと言ったな? だがこの短期間で貴様の村は魔獣塊に襲われている。どういうことかな?」


「そ、それは。 魔獣塊同士は互いを引き付け合う……。それに巻き込まれたとしか」


「嘘じゃな、その狐の尾は我らの手中にあるのじゃ。 狙うとすればこの街を狙うだろうに」


「何が言いたい? セッカ殿」


「……貴様らの方こそ我を謀ろうとしたのじゃろう? 情報の意図的な隠蔽……これは明らかな同盟違反じゃ」


俺はその言葉にようやくセッカの意図を理解する。


ようは、人狼族の村はすでに狼の尾を保有していたのでは?


とセッカは指摘しているのだ。


その言葉に、ガルルガは一度威嚇をするように唸ったが。


その後しばらく何か考えるようなそぶりを見せた後。


「実は……」


と、そう真実を語り出したのであった。


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