第4話 夢から覚めたら

 次に気がついたときには電気がついたままの自分の部屋で、テーブルに突っ伏していた。テーブルの上には飲みかけの缶チューハイと手つかずのまま置いてあるスイーツ。手にはSNSを開いたままのスマホ。

 どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。何時だろうとスマホに目をやると時刻は午前4時になろうとしていた。

 一体何時間この体勢で寝ていたのだろう、首や腕が痛い。

 今日は仕事は休みだ、ベッドに入って寝直そう。よく覚えてないけど、何だかすごい夢を見た気がする……。


 気怠い頭とギシギシ悲鳴をあげる体を動かしベッドへと向かう。

 よっこいしょ、と立ち上がったときに太ももの上から何かがひらりと床へ落ちたが、気づかずベッドへ入ってそのまま寝てしまった。



 どれくらいたっただろうか。太陽はだいぶ高くなり、カーテンの隙間からいい加減に起きろと言わんばかりに光を差し込んでくる。


「あぁー……眩しくて寝てらんない……寝させろよぉ……」


 太陽に文句を言いながらベッドの中でもぞもぞと寝返りをうった。二度寝をしようとするも今度はスマホの通知音に邪魔をされ、眠気がどこかへいってしまった。


「くぅ〜揃いも揃って私の惰眠を邪魔するのかぁ〜……」


 二度寝を諦めて、しかたなくベッドからのそのそと起き出す。

 天気も良いし、昨日の夜考えていた家事をこなすにもってこいの日だ。

 まだ寝たい目をこすって、荒れた部屋の現状に向き合うも一瞬で目をそらす。

 こうして今日も片付くことはないのかもしれない。

 せめてゴミくらいはまとめようとして、床の紙切れが目に入った。


「これって……夢でみたやつ……」


 なんでも屋の文字を見て、昨日の夢を思い出した。夢のはずなのになんでここに近部くんの名刺があるのか。もしかしたら、前に街角でもらっていて忘れていたのかもしれない。

 名刺といっても、手作りなのか紙が少しざらついて切り口もがたがた、手書きの文字はうま下手というべきか、とても個性的な字をしている。

 一枚ずつ手作りなのかな、と夢でみた人懐っこい笑顔を思い出して口元に笑みを浮かべていた。



◆ ◆ ◆



「……ふぅ。久しぶりにギリギリの帰りになったなー」


 ベッドの上でぐうっと体を伸ばしてから起き上がった。

 サイドテーブルに置いたペットボトルの水で喉を潤してからスマホで時間を確認すると、もうすぐ4時になるところだった。

 彼女は無事にこちら側に戻れただろうか。気になっても彼女の連絡先も知らないので、確認のしようがない。

 モヤモヤを流すようにペットボトルの残りを一気に胃に流し込んで、窓際のデスクに移動し、置いてあったノートパソコンを起動する。


 パソコンには、マイダの国での出来事やなんでも屋での稼ぎの明細、出会った人などを記録している。

 そのページに新しく〈鈴樹 律歌〉が加わった。律歌の外見的特徴から声のトーンや話し方、仕草など細かいところまで記載して保存する。

 一通り入力するとイスの背もたれに体を預けて、腕を高く上げて伸ばす。


「大体今まで会った人って事前にマイダの情報とか約束事を教わってから、あの世界にトリップしてるっぽいんだけど……あの子は教わってなかったのかなー。そんなことってあるのか?」


 僕の場合もそうだった。寝ていたら、目の前に10歳くらいの少年とハチワレの猫が出てきた。

 少年は栗色の癖っ毛の髪の毛を触りながら、マイダの国について教えてくれた。


 こちらの世界の0時から4時までしかゲートを開いておらず、向こうに行くには寝ること。

 0時を過ぎればいつでもマイダの国へは行けるけど、4時になる前にはゲートからこちらの世界へ戻らなくてはいけない。

 時間に遅れた人間には、恐ろしい罰則があるらしいこと。

 マイダの国にいる間は、何かしら仕事をしなくてはいけないこと。


 自由気ままな冒険者になりたいと言ったら、少年に一蹴されたっけな。

 マイダの国に魔法や魔王といった存在はないらしく、

「そんな考えは甘えだ、無職野郎!」

 と、罵られた。一応、こちらの世界ではデイトレーダーとして生活しているけど、少年は僕のことを何だと思っていたんだろう。

 しかし、野獣や盗賊はいるようで腕に覚えのある人間は討伐や護衛稼業、土地や店を持っている者は店舗を経営をし、非力な女性や子供は裁縫や内職など手仕事をして収入を得ていることが多い。


 あの世界に他とは違う状態で迷い込んだ彼女はどうするんだろうねぇ?


 これからのマイダの国での生活が楽しみだ。

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