第99話 おんみょーじチャンネル アーカイブ配信 『特別編 クリスマスのお仕事』



『こんにちは~。みんな霊力使ってる~? 獅童しどうお姉さんだよ!』


『みんな元気かな? 島羽しまうお兄さんだよ。今日も僕たちと一緒に、陰陽師の世界をのぞいてみよう!』


『ワン』


 昨日のおんみょーじチャンネルはクリスマス特別編で、チャンネル初のLIVE配信だった。

 12月24日クリスマスイブに配信されるテーマはもちろん『クリスマスのお仕事』。

 昨日は島羽お兄さんたちの舞台裏の声が入り込んでしまっていたが、アーカイブ配信ではどうなったんだろう。

 気になった俺はさっそくYouTu〇eを起動したのだった。


「みんなはもうサンタさんにプレゼントのお願いはしたかな?」


「は~い、私は新しい筆をお願いしたよ!」


 昨日書き込まれた子供達のお願いごとが、画面端のコメント欄を流れていく。

 じっくり読んでみれば、子供の純粋な書き込みよりも大人の悪ふざけの方が多かった。クリスマスイブに何やってるんだよ。


『スイッチ、PS5、ゲーミングPC、大人の人が混ざってますね。コメントありがとうございます』


『理系ちゃん人形、シベリアファミリー、私も昔遊んだよ!』


『なになに『コマちゃんにもプレゼントあげてほしい』。はーい、毎日いい子にしているコマちゃんの分も、サンタさんにプレゼントお願いしておきますね』


『ワン!』


 改めて見ると、島羽家の式神――狛犬って随分可愛らしい外見してるな。親父の狛犬はもっとゴツイ感じなんだけど。

 同じ種類の式神かもわからないし、当然ではある。


 コメントでのやり取りが終わり、昨日見た覚えのあるやり取りが始まる。


『わ~、みんな素敵なプレゼントをお願いしたんだね!』


『サンタさんは大人の所には来てくれないから、羨ましいな』


『私は彼氏がサンタさんの代わりにプレゼントくれるから大丈夫!』


 獅童お姉さんは彼氏とクリスマスを楽しんだのかね。

 羨ましいことで。


『それじゃあ、良い子の皆はサンタさんからプレゼントが貰えるように、お勉強も頑張らないとね』


『島羽お兄さん、クリスマスの陰陽師のお仕事ってなぁに?』


『クリスマスは皆が笑顔になる楽しいイベントだけど、サンタさんからプレゼントを貰えない一部の大人にとっては、悲しい気持ちになる日でもあるんだ。その悲しい気持ちは陰気となって、特殊な妖怪を生み出す原因になりやすい』


『あっ、私知ってるよ! “嫉妬”って呼ばれている妖怪だよね!』


『その通り。普通はイベント1つで妖怪が生まれるほど陰気が濃くなることはないんだけど、僕らの負の感情が1つの方向を向いているのが原因じゃないか、と言われているんだ。都市部では“嫉妬”が大量発生する。それら妖怪を陰陽師が退治してくれるおかげで、皆は美味しいケーキを食べていられるんだよ』


『そっか、陰陽師は大切なお仕事をしているんだね!』


 昨日のケーキは確かに美味しかった。

 クリぼっちな陰陽師の皆さん、本当にありがとうございます。


『そうだよ、大切なお仕事なんだよ。誰かがやらなきゃダメなんだよ。だから僕らが頑張るんだ』


 画面越しでも、彼からにじみ出ている闇のオーラが感じられた。

 でも去年は彼女いたんだよな。それで満足しろよ。贅沢者め!


『今日は特別版! 去年のクリスマスに島羽お兄さんがどんなお仕事をしたのか、お見せしちゃうよ~』


 そして始まるお仕事動画。

 島羽お兄さんが人通りの減った深夜の大通りを歩いている。

 LIVE配信のときは動画内で島羽お兄さんが現場の解説する合間に、スタジオの声が入り込んでいたが……。


[あっ、居ました、妖怪。皆さん、あれが“嫉妬”です。大した力は持っていませんが、人混みの前で戦うことはできません。誘導します]


 スタジオの声は編集で消されたようだ。

 動画内の島羽お兄さんが人形代を使って“嫉妬”を路地裏へ追い立てる。


 追い込んだ路地裏にはいちゃつくカップルがいた。彼らはカメラマンたちの乱入に驚き、慌ててその場を去っていく。

 人目がなくなってすぐ、焔之札1枚で妖怪は倒された。


[今日は一晩中“嫉妬”が現れるので、街を巡回して退治していきます]


 本当にお疲れ様です。

 日本の陰陽師会はクリぼっち陰陽師にボーナスを支給してもいいと思う。


 そして、画面がスタジオに切り替わる。


『島羽お兄さん凄かったね! クリスマスに陰陽師がどんなお仕事をしているか、みんな分かったかな?』


『この後はスペシャル企画、「クリスマス式神召喚!」のコーナーだよ。皆、いい子で待っててね!』


 島羽お兄さんの空元気がスタジオにむなしく響き、狛犬のコマちゃんが戯れる画面に切り替わった。

 この先はもう見たからいいや。


「編集って偉大だな」


 LIVE配信ではグダグダした部分がカットされてるし、声が聞きやすくなってるし、裏の会話が紛れ込むこともないし。


 おっと、そろそろ祖母とのビデオ通話の時間だ。

 優也の夢を壊さないように気を付けつつ、結局貰ってしまったクリスマスプレゼントのお礼をそれとなく伝えないと。


 ~~~

 12月25日にLIVE配信からアーカイブ配信へ本文が変わっております。


 なお、LIVE配信を見逃した場合の救済策として、サポーター限定で公開しております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る