婚約破棄されたので、家出をしようとしたら公爵令息に拾われたようです。
藍冴える
第1話 断罪なんて
それは、夜の舞踏会。
以前は王弟殿下の持ち物であった、白バラの咲き誇るジャンペール離宮で開かれる、サマーパーティの始まり。
着飾った上級貴族が行き交い、音楽隊も入場の音楽を奏でている。
「ーーリカエラ・ランデール‼」
リカエラの、煌めく青いナイトドレスは、サランバン王国第ニ王子フェルナンドの瞳の色だ。
その夜空色の瞳を苛つかせ、フェルナンド王子が、半分ほど埋まったホールを見渡す回廊の階段上から、人々を見下ろしていた。
リカエラは大声で呼びかけられたことに動揺しながらも、父のランデール侯爵とともに、階段下に進み出た。
赤金にも見えるダークブロンドを半分結い上げ、金の瞳を不安に曇らせると、隣に立つ父が、身体を支えてくれた。
今日が来ることは分かっていたのにね。
私はこの婚約者である王子が、そんなに嫌いではなかったことに、改めて気付かされた。
同じ髪と瞳の色を持つ父は、領地フォール州の領主と国中の交通や港町を管理する建設大臣をしている。その父と私を、フェルナンド王子は、壇上から憎しみを浮かべて睨みつけた。
「リカエラ・ランデール!
君は、聖女である、マリベル・カミュエンを虐げ、ランデール家に係る聖堂の出入りを禁止し、浄化の邪魔をした。また、貴族学校や学院において聖女マリベル自身についての悪評を流し、陰湿ないじめを繰り返し、授業中の事故に見せかけ、火傷を負わせた。
マリベルが聖女を休むこととなったことを、さらに人前で蔑んだ。聖女マリベルの心は傷ついている――。」
壇上の王子の背後に、聖女マリベルと一緒に宰相エグダル侯爵子息のガブリアス様と、経済大臣モンデニール侯爵子息ユーエン様が、マリベルを支えるように並び立った。第二王子の側近たちだ。
突如始まった断罪劇に、集まった人々は目を丸くし固まる。あるいは扇子で表情を隠しながら、成り行きを見守っていた。
会場を立ち去ろうとするもの、人に知らせる気配もある。
ーーー
人々を後目に、壇上の王子は、その夜のような瞳で私たち親子を見据えたまま、冷たく言い放った。
私の胸に、ツキンと何かが刺さる。きっとフェルナンド王子の目には、いつもと同じ表情の少ない私が映っていることだろう。
「また、我が側近ガブリアス・エグダルたちの調べにより、ランデール侯爵が大臣の立場を悪用し、街道の建設に伴う資金を流用したことも明らかとなった。」
ガブリアスは口元に笑みを浮かべ、フェルナンド王子の背後から合図を送った。
会場の袖から六名の騎士が出てきて、私たちを取り囲む。会場の通路や庭先にも動く気配があり、装備された騎士の姿に、怯え震え出すものもいる。
壇上のマリベルが怯えたように、フェルナンド王子の左袖を掴むと、王子はそのままマリベルの手を取り、眼差しを送ると、朗々と声を上げた。
「よって、ここにランデール侯爵を更迭する。
加えて、第二王子である私とリカエラ・ランデールの婚約破棄を宣言する。」
一瞬静かになった会場で、騎士たちが私たちを拘束するため動き出そうとした。
だが、先に動いたのは、父イグアス・ランデールだった。
その場に片膝を引いて跪き、胸に手を当てて拝謁の礼を取った。私も遅れず跪く。
「王太子殿下、第二王子殿下に恐れながら申し上げます。私やランデール家が関わった事業、及び職務として行った事業について、嘘偽りのあるものは一切なく、報告され、更迭されるような事実はございません。
また、長女リカエラについても、聖女の血を持つもの。そのような事実はございません。
イグアス・ランデールが伏して申し上げます。」
第二王子ではない、回廊下手側に頭を下げ、金の瞳を臥せ気味にして父が述べると、回廊にサランバン王国王太子ルシオルが現れていた。
側近であるラファエロ公爵子息アルフォンス様と護衛騎士であるオシム・カイゼル様、そして我が兄ハミュエル・ランデールを連れている。
「ルシオル殿下ーー。」
会場の誰もが、王太子の会場入りを知らずにいたようで、騒然としながらも皆姿勢を低くした。
フェルナンド王子は動揺し、王太子を見据えた。マリベルや側近たちは、立ち尽くしながら王太子たちが近づくのを待った。
私たち親子も周りを固められてはいたものの、無体はされずに済んだ。兄ハミュエルが、私の肩に手をかけようとしていた騎士を睨むと、騎士は後ずさり、父イグアスも掴まれていた腕を解かれた。
ルシオル王太子が、回廊の中心で立ち止まり、一堂を見渡した。もう誰も、第二王子たちを見ていない。
金色を伴った瞳の紺碧色が煌めき、白銀色の盛装で現れた王太子を見つめていた。
ルシオル王太子が、手を外に振ると、会場を囲んだ騎士たちが壁際に引き、入れ替わるように四人の騎士が回廊の袖に現れた。
「兄上ーー。」
フェルナンド王子が唇を噛みしめると、聖女マリベルが、フェルナンド王子の左腕に隠れるようにしがみついた。
「皆、騒がせてすまない。歓談に集まった者たちに、この場でフェルナンドや侯爵が伝えた言葉を、少し説明させていただく。
跪かずとも。面を上げてもよい。ただ、ここであったことは、この場で心の内に納めてほしい。」
王太子は話し始めたーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます