変わらぬ日常へ
「んう……」
息苦しさを覚え、僕は目を覚ます。
というか、顔に何か覆い被さっているような……って!?
「う、うわ……っ!?」
驚きのあまり、思わず叫びそうになってしまったところで、何とか踏みとどまり、大声を出さずに済んだ。
そ、そうだった……昨夜はシアのベッドで
だけど……シアの胸、また大きくなったよね……。
さすがにアンやリズ、サンプソン辺境伯と比べたらアレかもだけど、それでも、一般的な女性の胸のサイズかと言われればかなり大きい部類に入る。
も、もちろん、柔らかくて心地良くて、最高なのは認めるけど……そ、その、こうして一緒に寝ると凶器に近いかもしれない……。
「と、とりあえず、この状況を何とかしないと……」
い、いや、心ではシアの胸から離れたくないという気持ちはあるんだけど、そのせいでシアに嫌われたくはない。
今さらかもしれないが、シアの前では紳士でいたいから。
だけど。
「うう……シア、意外と力が強い」
抱きしめるシアの腕が一向に離れず、僕はどうにかしようともぞもぞしていると。
「ふあ……あ……ん……」
シアが、突然甘い声を漏らした!?
ど、どうやら、中途半端に身体を動かしたりしたせいで、余計なところに触れたりしてしまったみたいだ。
くそう、こんなシアの声なんて聞いてしまったら、僕の理性が……!
これでも僕だって、まだ十五歳なんだぞ!? こういうことには当然、その……ねえ……?
「ん……ふあ……」
などと悩んだり悶えているうちに、シアのまぶたがゆっくりと開いた。
ど、どうしよう……。
「あ……ふふ、おはようございます……」
「お、おはようございます……」
僕の顔を見てニコリ、と微笑むシア。
どうやらこの状況を、まだよく理解していないようだ。
い、今のうちに……。
「カ、カーテンが少し開いていますので、ちょっと閉めてきますね」
そう言って、僕は誤魔化すようにそそくさとベッドから降り、窓へと向かった。
ふう……危ないところだった。
そして、ベッドへとまた戻ると。
「ギル……ちゅ、ちゅ……ちゅぷ……」
シアが僕に抱きつき、口づけをしてくれた。
け、今朝はやけに積極的だなあ……。
「ぷあ……ふふ。その……あなたに触れられて、我慢できなくなってしまいました……」
「っ!?」
唇を離した後、顔を真っ赤にしながらシアが消え入るような声でそう告げた。
多分僕も、シアに負けないくらい顔を真っ赤にしていると思う。
僕、は……。
「シア……」
「ふあ……はい……」
彼女を抱き寄せ、そっと顔を近づけると……。
――コン、コン。
「「っ!」」
「フェリシア様、おはようございます」
ノックの音とアンの声を聞き、僕達は慌てて飛び退いた。
くそうアンめ……いいところだったのに……。
「……と、とりあえず、僕は部屋に戻ります」
「は、はい……」
僕は何度も振り返ってシアを見ながら、肩を落として自分の部屋へと戻った。
◇
「ギル、表情が硬いですよ?」
朝食を取りに食堂へと向かう中、シアが僕の顔を
昨夜のことがあって初めてクリスと顔を合わせるものだから、僕は緊張してしまっている。
どんな顔をすればいいのか、と。
すると。
「ギル、失礼します」
「え? わっ!?」
シアが突然前に立ち、僕の両頬をその細く綺麗な指でつまんだ。
「ヒ、ヒア……?」
「ふふ、あなたの緊張が解けるように、顔をほぐして差し上げますね」
ニコリ、と微笑みながら、シアが僕の頬を縦横に動かす。
僕はといえば、そんなシアを見つめながら、ただされるがままでいた。
そして。
「これでよし、です」
ようやく僕の頬を解放し、シアが満足そうに頷く。
そんな彼女の表情や仕草が可愛くなって。
「プ……あはは!」
僕は、声を出して笑った。
「フフ! ギル、すごくいい笑顔ですよ!」
「はい! 全部シアのおかげです!」
うん。自分でも、先程まであった緊張が和らいでいるのが分かる。
本当に、シアには敵わないなあ……。
「さあ、クリス様を待たせてはいけませんので、早く行きましょう!」
「ええ!」
僕とシアは手を取り合いながら、食堂へと入ると。
「あ! ギルバート、おはよう!」
クリスは僕を見るなりパアア、と満面の笑みを見せ、嬉しそうに駆け寄って来た。
「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「うん! バッチリ!」
そう言って親指を突き立てるクリス。
だけど、彼女のまぶたは少し腫れていた。
あはは……本当に、無理をして……。
「そうか。第一王子とクラウディア皇女の面談は上手くいったが、皇女が滞在されている間、すべきことはたくさんある。もちろん、その後も。だからクリス、覚悟しろよ?」
「アハハ! もちろん、任せてよ!」
クリスは自分の胸を叩きながら、咲き誇るような笑顔を見せた。
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