【6/5発売!】転生先は自作小説の悪役小公爵でした 断罪されたくないので敵対から溺愛に物語を書き換えます
サンボン
悪役令嬢のヒロインと、ざまぁ対象の小公爵
「……プレイステッド侯爵家の長女、“フェリシア”と申します」
自己紹介をして無表情で優雅にカーテシーをする少女。
プラチナブロンドの綺麗な髪、まるで氷のような冷たさを
そう……目の前にいるフェリシアという少女は、この僕の
当然だ。
――だって少女は、
◇
僕がこの世界が自分の書いた小説の世界なのだと理解したのは、五年前の八歳の時。
調子に乗って納屋の屋根から飛び降りた拍子に頭を打ち、一気に前世の記憶が蘇ったのが始まりだ。
『聖女の妹と婚約者に裏切られて死に戻った侯爵令嬢は、二度目の人生で全てを見捨てた結果、王子達に溺愛される』
これが僕の書いた小説のタイトルで、当時は悪役令嬢モノの異世界恋愛が流行っており、僕もそれに便乗してweb小説投稿サイトに投稿したんだ。
おかげさまでランキング上位を駆け上がり、書籍化、コミカライズ化までしたんだけど……って、それはどうでもいい。
要は、この世界は僕が書いた小説の世界で、僕はその小説の登場人物の一人だということだ。
しかも、ヒロインで悪役令嬢のフェリシアを裏切り、教会から“聖女”の認定を受けたヒロインの妹“ソフィア”と共に婚約者を死に追いやった、“ギルバート=オブ=ブルックスバンク”として。
ちなみに僕は、ヒロインの二度目の人生において盛大にざまぁされることになり、ブルックスバンク家は取り潰し、僕自身もそれまでの悪行がたたり、ヒロインを溺愛するこの国の王太子や第二王子の手によって大衆の目の前で処刑されてしまう。
もちろん僕は死にたくないので、そんなエンドは全力で回避する所存。
だが、それ以上に。
「……………………………」
僕は無言のまま、そのサファイアの瞳で見つめているヒロイン……フェリシアを見やる。
うん……やっぱり
まあ、そんなことは
それ以上に、最もフェリシアの可愛いところはその性格。
見た目のそのクールな容姿のせいで冷たい印象を与える上に、これまでの境遇……実家では妹のソフィアばかりが愛情を注がれ、彼女は家族ばかりか使用人にまでないがしろにされており、人を拒絶してしまう。
でも、本当の彼女は誰よりも慈愛に
「小公爵殿、我が娘に見惚れるのは分かりますが、そろそろ……」
フェリシアの隣にいる、
いけない。フェリシアに出逢えた喜びで、つい物思いにふけってしまった。
「ブルックスバンク公爵家の“小公爵”、ギルバート=オブ=ブルックスバンクです」
僕は胸に手を当て、彼女に向けてお辞儀をした。
するとどうだろう。フェリシアは僕を見て、その透き通るようなサファイアの瞳を見開いた。
そんな彼女の反応で、僕は悟る。
そうか……ここは既に、死に戻った後の世界なんだな。
フェリシアがタイムループするタイミングは、ギルバートと初めて顔を合わせる日の朝だ。
そして彼女の二度目の人生でも、ギルバートはあろうことか彼女を罵り、蔑むのだ。
しかも、『自分の婚約者にはこんなみすぼらしい女ではなく、“聖女”である妹のソフィアであるべきだ』などと、とんでもなく彼女を傷つけるようなことまで言い放って。
いくらヘイトを溜めて盛大なざまぁをするためとはいえ、ギルバートとして生まれ変わった今となっては、とにかく前世の僕をぶん殴ってやりたい。
とはいえ、ギルバートがそんなふうに性格がねじ曲がってしまったのにも理由がある。
ギルバートは、僕が前世の記憶を取り戻す一年前の七歳の頃に両親を事故で亡くし、それから公爵家の領地や財産を狙った輩に
幸いなことに、亡き父である先代公爵に仕えている部下達が
というか、作者の僕はギルバートなんてただのざまぁされるだけのキャラでしかないので、精々名前と性格、身分くらいしか設定しておらず、家族構成や生い立ちなど考えてもいなかった。
だから前世の記憶が戻った時、『どれだけハードモードの人生なんだよ』と、頭を抱えていたのは記憶に新しい。
……とにかく、だからこそ僕が礼儀正しく挨拶をしたことで、既に僕の横柄な態度を
だけど、さて……これで僕は、このままだと破滅エンドまっしぐらということが分かった。
こうなっては、フェリシアの婚約者として一から関係をやり直すことも不可能だろう。
だって、もう彼女は僕を見限っているのだから。
「さて……ではフェリシア殿、せっかくですから庭園にでもまいりましょう」
僕はそう告げると、フェリシアの前で膝をつき、手を差し出した。
「フェリシア殿……どうぞ」
「っ!? ……は、はい……」
フェリシアは息を飲んだ後、おそるおそる僕の手を取った。
はは……まあ、そうだよな。死に追いやった奴の手なんて、触れたくもないに決まっている。
でも、それでも……僕は、彼女の手に触れてどうしようもなく胸が高鳴っている。
やっぱり彼女の手は細く、透き通るようで、絹のような肌触りだった。
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