第2話


 次に私が目を覚ました時、洞窟の中は明るかった。

 そして、黒髪の彼は私の横で寝ていた。驚くほどぐっすりと眠っている。


 ついていた火は消えて残っているには焚き火の跡だけ。


私はもぞもぞと身体を動かす。彼の方を向いてじっと彼の顔を観察してみる。


 睫毛が女の子みたいに長いし肌は白くてすごく綺麗。

 黒い髪は明るいところで見ても、昨日見たのと変わらず、星が輝いている夜空のようだった。


 黒い、夜空のような髪に少し触ってみたくて、そっと手を伸ばして髪を撫でる。

 物凄くさらさらで撫で心地がとても良い。

 触りごことが良すぎていつまでも撫でていたい。


 私が彼の髪をさわさわと撫でていると、くすっと彼が笑った。


「おはよう。身体の調子はどうかな?怠かったり熱があったりしてない?」


 柔らかく微笑まれて私は恥ずかしさで顔を赤くする。

 いつから起きていたんだろう。


「おはようございます。身体は怠いところもないので大丈夫です。……いつから起きていたんですか?」


 私は彼に挨拶をしてから質問に答えた。最後のはちょっと聞いてみたかっただけだ。


「ん〜?君が僕の頭を撫でていた辺りから?」


 彼はにこっと笑い、欠伸をし、伸びをしてから立ち上がった。

 服に着いた砂を軽くはたきながらもう1度欠伸をする。


 少し歩いた先にある、洞窟の入り口から外を見た彼は困った顔をしていた。


「だいぶ寝過ごしちゃったね。もう太陽があそこまで上がってる。ちょっと待ってて。ちょっと遅い朝ご飯の用意をするから」


 急いで洞窟から出て行った彼をじっと見ているとすぐに私の視界から消えた。


 彼がいなくなったことを少しだけ寂しく、心細く思っている私がいる。

 駄目だ。こんな弱気では治るものも治らなくなってしまう。


 取り敢えず、彼が帰ってくるまで暇なので、自分が使っていた布を畳むことにした。


 角と角を合わせて半分に折る。

 子供のお手伝いでもあるこの作業はとても得意だ。


 昔から身体が弱かったため外にあまり出られなかった。

 その代わりと言っては何だが家の中のお手伝いでできることはなるべくやらせてもらっていた。


 ありがとう、お母さん。今、とっても役に立っています。


 心の底でお母さんに感謝を伝えていると彼が帰ってきた。どこも怪我をしている様子はないので、少し安心する。


 彼は、洞窟の手前の方で立ち止まり、そこにある台で手を動かしている。何をやっているんだろう?


 少しの間手を動かし、手を止めた彼はこちらを見てにこっと笑った。私も戸惑いながら、笑い返す。


 彼は、満足げに頷いて、また作業へと戻っていった。どうやら、反応はあってたっぽい。よかった。


 彼は、両手に一皿ずつ、中身の入ったお皿を持って私のところまで来る。


「遅くなってごめんね。ちょっと遠くまで取りに行っていたから君をほんの少しだけど一人にしちゃった。でも、君がいい子で待っていてくれたおかげで朝ご飯の準備ができたから、少し遅めの朝ごはんにしよう?」


 私は彼の言葉に頷いて、彼から色とりどりの物が入ったお皿を貰った。


 私に渡されたお皿には果物がたくさん入っていた。中には知らない果物も入っている。


「一応、消化に良いものを選んだからゆっくり食べてね。体調が良くなったら君を送ることができるから、きちんと体調を整えることが君の仕事だよ」


 彼の言葉に私は目を開けて彼を凝視した。

 私はぽつりと呟く。


「私、帰れるんですか」


 私の呟きに彼はにっこりと笑って肯定した。


「後で地図を見せてあげる。君が住んでいた場所はすぐに見つかると思うよ。だから、今はきちんとご飯を食べてね」


 私は希望が生まれてきたことから食欲が出て、お皿に入っている果物を全て食べた。


 こんなに沢山の物を食べたのは初めてだ。

 きっとお腹が空いていることも原因だったんだろうけど、彼と食べることが何よりも楽しくて嬉しかったのだろう。


 彼とは初めて会ったのに何だか昔からの知り合いのような、近所に住んでいるお兄さんのような人だと思った。 


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