第61話 今、明かされる衝撃の新事実ゥ!?

 甚太への仕返しに関する顛末について語ろう。

 まず、佐村甚太は行方不明になった。

 佐村甚太の家にいた連中も、丸々全員が行方不明になった。


 その後、警察に一報があって、屋敷の地下で裸の少女達が見つかった。

 皆、心身が激しく衰弱していて、即入院となった。


 佐村甚太に関しては、この事実の露呈を恐れて逃走したということになった。

 重要な資料や金庫の中身などがなくなっていたことによる結論だ。


 ま、その辺の工作は俺がやったんだが。

 あと、警察への一報も魔法で声を変えて俺がしておいた。


 甚太の餌食になった女達については、悪いが俺の管轄外だ。

 あいつへの仕返しに利用できそうだったから使っただけに過ぎない。


 ま、俺、神様じゃないしね。

 苦しんでる人間全員なんて救えないので救わない。そういうことだ。


 そして、甚太への仕返しが終わり、俺は次に向けて動き出す。

 丁度、そのために協力が欲しい人間とも連絡が取れた。


 本日、土曜日の朝の、アパートでの話だ。

 ようやく、スダレへの電話が繋がった。


『あ~い、もしもし亀よ噛めば噛むほどクセになるよ~?』

「間違いなくスダレだな。俺だ、俺」


『わぁ~、カフェオレ詐欺~? どこの乳業に幾ら振り込めばいいの~?』

「おまえのボケ、変な方向にひねり入っててわかりにくいんだよ!」


 今、二段か三段くらいねじくれてたよなぁ!?

 まぁ、これぞスダレって感じでちょっと安心した俺もいるけどさ。


「おまえさー、ここ数日どこ行ってたの? 仕事頼みたかったんだけど……」

『ん~? ちょっとね~ん。にゃはは~』


 やけに声が弾んでるじゃねぇか。

 もしかして、カレシ? ……スダレに? いや~、それはないかな~、さすがに。


「今は、事務所か? 今日そっち行っていいか?」

『にゃ~ん』


 どっちだよ!?


『いいよ~、事務所で待ってま~す』

「おう、じゃあ、特別ゲスト連れていくわ」

『ゲスト~? あいあ~い、楽しみにしてみゃ~ん。みゃ~ん』


 電話が切れた。


「何か、いつも以上に脳みそトロけてねぇか、あいつ……」


 本当に、今日までどこ行ってたんだろうな。

 まぁいいか。あんまりプライベートに立ち入るのもよくはない。


「よ~し、アポとれたから昼飯食ったら事務所いくぞ~」

「スーちゃん? スーちゃんに会えるのか? やったァ~!」


 と、大騒ぎしているのは、特別ゲストことバカことタマキである。


「あんた、結局今日までここにいたわね」


 ミフユが呆れながら言うと、タマキは「え?」とそっちを向いて、


「おかしゃんこそおとしゃんのウチにずっといるじゃ~ん。一緒じゃ~ん」

「わたしは避難も兼ねてるからいいのよ。ジジイにお誘いされた立場だし~」


「それだったら、オレはおかしゃんの護衛役だよ。いいっしょ?」

「む。まぁ、そうね。あんたがいてくれると助かるのは事実ね……」


 うん、そこは俺もミフユも認めるしかないな。

 俺一人とタマキが一緒とじゃ、安心の度合いがまるで違ってくる。


 ちなみにシンラの方はというと、ひなたを連れて藤咲の家の方に行っている。

 ひなたの遺産相続の件について色々と調整があるらしい。

 お金の問題ってのは、いつでも難しいし、時間がかかったりするもんだ。


「あ、今日のお昼はうどんとおそば、どっちがいいかねぇ?」


 と、そこでお袋から飛んでくる質問。そして、


「うどーん!」

「おそばー!」

「どっちでもいい」


 上から、タマキ、ミフユ、俺である。


「……うどん!」

「……おそば!」


 睨み合う、長女とママ。見た目的にはJKとJS。そこに俺が介入した。


「それではこれよりお昼のメニューかけた、腕相撲一本勝負を開催しまぁ~す!」

「ッしゃあ! やったるぜェ~! オレが勝つッ!」

「ま、待ちなさいよ、ジジイ! 腕相撲でタマキに勝てるワケないでしょ! 卑怯よ、無効試合よ! 八百長だわ! せめてあっち向いてホイにしなさいよ!」


「フフン、おかしゃん、オレに勝つ自信、実はないんだろ?」

「実は以前に最初からないわよ!」


 その、タマキのカッコつけた挑発には、本当に何の意味もなかった。

 あ、結局お昼はお袋が両方作ってくれることで決着しました。うまかった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 午後二時。宙色市内、八重垣探偵事務所。


「わぁ~、おタマ姉だぁ~!」

「うぉ~、スーちゃんだぁ~!」


 感激の再会を果たした姉妹二人、ヒシと抱きしめ合いましたとさ。


「相変わらず、紙の山な事務所よね~」


 ファイルが積み上げられた事務所内を見て、ミフユがそんなことを呟く。

 うん、俺もそれは同感。これ、どこに何のファイルがあるかわからなくならんか。


「どこに何のファイルがあるかは~、全部覚えてるぅ~」

「すげぇ……」


 その記憶力といい、本当に情報に関してはスダレは群を抜いてるな。

 だからこそ、今回も頼らせてほしいワケだが。


「それで、スダレはこの数日、どこ行ってたのよ?」


 おっと~。俺も興味があるそこに、ミフユが早速切り込んていったぞ~。


「え~? みゅふふふ~、あのね、あのね~」


 そこで、スダレは何やら両手で口を覆って、頬を赤くする。


「何よ、その反応は……」

「あのねぇ~、東京にねぇ~、行ってたんだよ~。ジュン君のところ~」


 ジュン、君?

 明らかに男の名前。まさか、まさかまさか、スダレに、彼氏が……!?


「……誰よ、そのジュン君っていうのは、彼氏か何か?」


 伝わってくる。ミフユの激しい動揺が、俺にははっきりと伝わってくる。

 タマキまでもが「おお、コイバナか?」と興味津々なご様子。一応JKだからな。

 そしてスダレが、ニマニマしながら言ってきた。


「ジュン君はウチのぉ~、旦那様ァ~!」

「「旦那様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!!?」」

「スゲェ~! スーちゃん、結婚してたんかァ~!」


 今、明かされる衝撃の新事実ゥ!?


「ジュン君ね~、今、東京に単身赴任中でぇ~、ウチ、月一でそっち行ってるの~」

「うおー! すげー! タンシンフニンって何か社会人っぽーい!」


「…………」

「…………」


 はしゃぐタマキと、揃って絶句し続ける俺とミフユ。

 マジかぁ、スダレは既婚者だったのかぁ。……よく結婚できたなぁ。


「ス、スダレから告白した、とか……?」


 顔に驚きを張りつけたまま、ミフユが問う。


「うぅ~ん、告白も~、プロポーズも~、ジュン君からなのぉ~! にゃは~!」


 スダレが頬に手を当てて、赤いままの顔を左右に振り続ける。


「へぇ~、面白いわねぇ……」


 娘の結婚に対しての感想とは思えない言葉を漏らすミフユだった。

 いや、でも、わかる。

 そういう感想になっちゃう、すごいよくわかる。


 いやぁ、世の中、面白いなぁ。って俺も思っちゃってるモンなぁ……。

 これはさすがにビックリしましたわ。うん、驚いた。


「あの、あの、そろそろお仕事のお話、しなぁ~い?」


 これ以上は気恥ずかしいのか、スダレは自ら話題の修正を試みようとする。

 まぁ、そうだな。もう少し話を聞きたいところだが、それはまた今度でもいい。


「じゃあ、今回頼みたい調査なんだが――」


 俺は、スダレに依頼したい内容を詳しく話した。

 その間、ミフユは俺の隣で一緒に内容の説明に加わり、タマキは居眠りしていた。


「どう、スダレ? お願いできそうかしら?」

「ふみゅ~ん、なるほどねぇ~」


 説明を終えると、スダレは腕を組んでしばし考えこんだ。


「調査はねぇ~、できると思うよぉ~」

「お、マジか。助かる」


 情報結界を使えないたぐいの調査なので、難しいかもという懸念があった。

 だがそれは杞憂に終わった。じゃあ、残るは調査にどれだけの時間がかかるかだ。


「調査は、何日くらいかかりそうだ?」

「一分」

「そうか、一分か。それは……、ん? 一分?」


 一分ッ!?


「うん、一分。ん~、もしかしたらかからない、かも~」


 言って、スダレは指輪を使って『異階化』を行なう。

 切り替わった世界は、無限に広がる純白の空間。『スダレのお部屋』だ。


「うぉ~! 何かスッゲェ広ェ~! 体がウズウズするから走ってくるな!」


 起きるや否や、そんなことを叫んでタマキが全力疾走を始める。

 鎖から解き放たれた犬か何かか、あのバカ娘は……。


「ちょっと待っててねぇ~ん」


 スダレは、パソコン型の異面体ビロバクサを使って何かを調べ始める。

 俺とミフユは、傍らに立ってその様子を眺めていた。程なく、


「はぁ~い、検索ヒットォ~、見つけたよぉ~」

「「はっや!」」


 もうかよ、もう見つけたの? 一分かかってないよ!?


「フフ~ン、検索ワードが特徴的だったからすぐわかったよ~。……でもこれぇ、ウチ以外にも知ってる人がいる情報だから、いらなぁ~い。おパパにあげるねぇ~!」

「お、おう、あんがとな……」


 その後、現実に帰還してから、俺はスダレが書き上げた報告書を受け取った。

 そこには天月市内のとある住所が記載されていた。

 住所を確認して、俺はミフユに尋ねる。


「どうする?」

「決まってるでしょ。行くわ。今日中に決着をつけるわよ」

「ああ、そうだな」


 やるべきことは決まった。

 俺は、ミフユとタマキを連れて、飛翔の魔法で目的の場所へ向かった。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 天月市の西側に、ちょっとした山がある。

 その奥、市街地からかなり離れてる上に入り組んだ道の先に、その家はあった。

 現在、俺達三人は、空の上からその家を見下ろしている。


「ここか……」


 家は二階建てで、それなりに大きい。

 しかし庭もさほど広くなく、何より周りは木ばかりで外からは全く目立たない。


 厭世家の賢者でも隠れ住んでるんじゃねぇかっていう感じだぞ、これ。

 さてさて、どうしたもんか。ひとまず手始めに偵察ゴーグルで内部を拝見かな。


「もしもーし! ごめんくださーい! オレでーす!」


 そこに轟き渡る、バカの声。

 あれぇ~! 何かタマキが家の玄関前にいるよ~!? い、いつの間に……!


「もう、ホントに、あのバカ! 本気で笑えないのよ!」

「ああもう、段どりメチャクチャだぁ~。こりゃ笑うしかねぇわ~!」


 っつっても、出てくるのはどこまでも白けた笑いだけなんですけどねェ!

 俺とミフユはすぐに着地して、タマキに続いて玄関前に立った。

 あとでクソ説教する、と思いながら、ひとまずはタマキの好きなようにさせる。


「ごめんくださーい! ごめんくださーいって言ってるだろ~! 開けろよ~!」


 ガンガン、ゴンゴン、バンバンッ!

 ノックと呼ぶにはあまりに大きすぎる音が響く。これ、ドアもつんか?


 見たところ、表札もない。

 家のある立地といい、ここに住んでるヤツは本気で隠棲したがっているのかも。

 そう考えていると、家の中からバタバタと足音が聞こえてくる。


「――どこの誰だ、本当にうるさいッ!」


 家人の声、なのだろうが、あれ、聞き覚えがある声だぞ?

 いぶかしんでいるところに、乱暴な調子でドアが開かれ、中から男が顔を出す。


「何なんだ、騒々しい! 迷惑なんだッ……、よ……?」

「……おまえ、佐村龍哉」


 俺達を――、いや、同行している美芙柚を見て呆然となった龍哉が、そこにいた。

 こいつがこの家にいる事実。

 それが意味するところを即座に理解して、俺は強く舌を打つ。


「佐村龍哉、おまえかァ――――ッ!」


 そして、憤怒に駆られた俺は勢いに任せて、龍哉の胸ぐらを掴みにかかった。


「な、なァッ、何だァ……!?」

「アキラ!」

「おとしゃん!?」


 そのまま、俺と龍哉は家の中へと入っていき、ミフユとタマキがそれに続く。

 龍哉は、何が何やらという感じで、なすがままになっていた。


「何だ、いきなり何なんだッ!? 何をするんだ、このガキ!」

「うるせぇ、おまえが――」


 俺はきつく歯を軋ませながら叫ぶ。


「おまえが『自営面子の守谷亭』なんだろうがァッ!」


 スダレへの依頼の内容。

 それは『梅雨の佐村狩り祭り』を主催・運営する守谷亭の居所の調査だった。


 真夜中の『ジャンクメイカー』の襲撃も、佐村甚太の件も、元凶は守谷亭だ。

 だから俺はそれを潰そうと考え、まずはスダレに調査を依頼した。


 その結果が、この状況だ。

 美芙柚と同じ佐村の人間である龍哉が黒幕だったのだ。

 とんだ自作自演だぜ。


「ま、待て、僕が守谷亭? い、一体何の話だ、何を言ってるんだ!?」

「しらばっくれてんな、ここに守谷亭がいるのはわかってンだよ!」

「この家に、守谷亭、が……?」


 胸倉を掴み上げて激しく詰問する俺に、龍哉の顔色はみるみる蒼白になっていく。

 ほほぉ、なかなか演技上手じゃございませんこと。こりゃ吐くまで拷問かァ?


「待ってアキラ、様子がおかしいわ。これ、演技じゃないわよ」


 演じることについては俺より遥かに上手のミフユが、俺にストップをかける。


「何だよミフユ、演技じゃないって、どういうことだよ……」


 俺は驚きに目を剥いてしまう。

 佐村龍哉の反応は、演技じゃない? 素の、本物の驚愕だっていうのか?


「それじゃあ、守谷亭は……」


 龍哉同様に呆気にとられる俺の耳に、聞いたことのない声が響く。


「あ~ぁ、もうバレちゃったのか~」


 トン、トンと軽快な足音を立て、声の主は二階に続く階段から降りてくる。

 現れたのは、俺と同年代くらいの、利発そうな容姿をした少年。


 佐村龍哉はそちらを見て、かすれた声で「鷹弥?」と声の主の名前を呟いた。

 その名前は知っている。佐村鷹弥。龍哉の息子の名前だ。


「おまえ……」


 ここまでの流れから、それでも俺は半信半疑で目の前の少年に問う。


「おまえが『自営面子・守谷亭』なのか、――佐村鷹弥ッ!」

「うん、そうだよ。守谷亭は、この僕さ」


 そう言って、鷹弥は可愛らしく笑って首をかすかに傾けた。

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