2-3

目覚めると、そこは自分の部屋だった。


「何……?! 攻撃を受けた? 何でここにいるの?」


 体を起こすとまためまいがしたが、数秒で収まり元に戻る。貧血になる時期ではないが、何かが原因で気絶してしまったようだ。


 ひょっとして全てが夢だったかと思ったが、左手の甲にはあの変な模様が残っている。それにポケットにはあの部屋で手に入れた金のタイルが入っていた。

 兜と帷子は脱がされ部屋の床の上に置かれていた。恐らくエルデンがやってくれたのだろう。几帳面な畳み方には癖がある。


 間違いなくあのダンジョンに入り、あの部屋で魔導人形に出会ったのだ。


「……おじいちゃん!」


 自分がここにいるということは、恐らくエルデンが助けに来てくれたのだ。あんな義足の脚では森の中を歩くのもやっとだろうに……!

 アイーシャは布団をはねのけて一階に向かう。すると階段の降り口からはエルデンともう一人の声が聞こえてきた。


(あれは……あの時の魔導人形?!)


 間違いない。交わした会話は少ないが、あの声は覚えがある。あの勝手に動き出した魔導人形だ。あの魔導人形が、エルデンと会話している。それも……何だか親しげに。


(一体何がどうなってるの? おじいちゃんは無事なの?)


 そっと階段を数段降りて、手摺の隙間から声のする居間の方を見る。すると、そこには談笑するエルデンと魔導人形の姿があった。

 こちらの視線に気づいたのか、魔導人形がアイーシャの方を見た。視線が合いアイーシャは思わず死角に入り込むが、しっかり見られているので今更隠れられない。


(何であたしが自分の家でコソコソしなきゃいけないのよ!)


 何だか急に腹が立ち、アイーシャはこれみよがしに足音を立てて一階へ降りていった。


「おお、アイーシャ! 目が覚めたのか! 体は大丈夫か」

 エルデンはアイーシャに気付くとソファから立ち上がり、右足を引きずりながらアイーシャに駆け寄った。


「うん、ちょっとめまいがしたけどもう平気。それより……」

 アイーシャが魔導人形の方を見ると、祖父は頷き言った。


「彼がお前をおぶってここまで連れてきてくれたんだぞ! 命の恩人だ!」


「えっ……おぶってって……おじいちゃんじゃなくてそいつが?」

 アイーシャは奇妙な嫌悪を感じ顔を顰めた。こいつに助けられた? 得体の知れない奴に助けられたというのは、あまり愉快なことではなかった。


「そうだよ。お前がいつ帰って来るかと心配していたら、彼がお前をおぶって山を降りてきたんだ。何かあったのかと思って肝を潰したが、急にお前が気を失ったと聞いて……生きた心地がせんかったわい! 全く、心配をかけおって!」


「ごめんなさい、おじいちゃん……そう、確か急にめまいが起きて、それで……」

 アイーシャは何が起きたのか思い出していた。貧血のようなめまい。あんな風に倒れたことは今までに一度もなかった。


「恐らく魔力酔いだろう。僕と契約したから、僕の力が君に流れ込んだんだ」

 ソファに座ったまま魔導人形が言った。


「何? つまりあんたのせいってこと?」

 アイーシャは語気強く問いかけながら魔導人形の側に行く。魔導人形は不思議そうな顔をしてアイーシャの顔を見ていた。


「契約の影響だ。僕の内部の余剰な魔力が君にも分配されたんだ。本来であれば主の魔力を僕が受け取るんだが、主である君の方が弱いからそうなった。慣れない魔力量に当てられてその負荷で昏倒したんだよ」


「あんたの方が魔力が強い……? そんな機能を持った魔導人形なんて聞いたこと無いけど……」

 アイーシャは自分の手に魔力を集めてみる。すると、たしかに普段以上の力を感じた。数倍……いや、十倍以上かもしれない。途方も無い力のように感じられた。


「ふーん……変な機能を持った魔導人形なのね、お前。あっ! そんなことよりおじいちゃん! すごいものを取ってきた!」

 そう言いアイーシャはポケットから金色のタイルを取り出す。


「こ、これは……金か?!」

 タイルを一つ受け取り、エルデンはその重さを確かめる。


「うむこの比重は……鉄や銅よりはるかに重い。鑑定してみねばわからんが……金であれば相当の価値があるぞ!」


「すごいでしょ?! きっと本物よ! これだけあれば当分の間生活に困らないわ!」


「おっほっほ! まったくじゃな!」


 アイーシャとエルデンは手を打ち合わせ笑いあった。

 魔導人形はよく分からないまま微笑んでいた。

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