第二話 魔導人形
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「こいつ……死んでる、壊れてるの?」
アイーシャはメイスを取り先端で魔導人形をつついた。反応はなく完全に停止しているようだった。
「ここは……このダンジョンはこいつの墓って事? そんなダンジョン聞いたこと無いな……」
僧侶研修ではダンジョン攻略について一通りの歴史や既存のダンジョンの特徴を学んだ。その知識の中では、最下層に魔物の死体が封じられており、その封印を解いてしまい多くのパーティが犠牲になったという事例もあるらしい。
しかしここにいるのは魔物ですらなくただの魔導人形だ。
魔導人形は、太古に存在した魔力で動き思考する自動人形のことだ。人の代わりに働いたり戦ったり、中には人間のように権利を持ち市民として生活しているものもあったらしい。
しかし現在ではその技術は殆ど失われ、時折出土する壊れかけの魔導人形を金持ちが侍らせたり、研究者が探究心により分解するなどの需要しか無い。
アイーシャも実際に動いている魔導人形を見たことはあるが、まだ犬のほうが賢く命令を聞きそうな、壊れかけのどうしようもない玩具に過ぎなかった。
「売ればお金に……なるのかなあ?」
アイーシャは首を傾げながら、もう一度魔導人形の頬をつついた。
こんな石棺に入っている以上は、何かしら価値のあるものだと思いたい。それにここまで来て放置して帰るなんて、なんだかとても損した気分だ。それにここはダンジョンだ。次来た時には内部がどうなっているか分からない。後からこの魔導人形の価値に気付いても、時既に遅しだ。
「何とかこいつを引っ張り出して……売っぱらってやる!」
二束三文かもしれないが、見た限り四肢は揃っている。穴も空いていないし割れたり欠けたりもしていない。壊れて動かないとしても、置物や標本としてなら価値があるかもしれない。
アイーシャは蓋を更にずらして魔導人形の上半身が見えるようにし、中に入って魔導人形の脇に手を入れて持ち上げようとした。
「うんぬぬぬ……! 何、こいつ……すっごく重い……!」
見た目は枯れ木を束ねた程度のものにしか見えないが、金属でできているらしくかなりの重量があった。腕を引っ張り上げてみるが上半身が僅かに浮くだけで、とても起こせそうにない。アイーシャの力ではどうやってもこの石棺から出すことは出来ないようだった。
「ああ、もう! 壊れているくせに生意気ね! 自分で起きて出てくればいいのに!」
アイーシャはそう言って石棺を蹴飛ばした。
不意に魔導人形が光り始めた。その全身から橙色の光を発し、周囲に風が巻き起こる。
「わ、わっ! 怒ったの?!」
アイーシャは石棺から飛び出し、メイスを持って部屋の入口まで下がった。その間にも石棺の内部では光と風が巻き起こり、部屋全体を嵐のように強い風で揺さぶっていた。
アイーシャが魔法カナリアを見ると、不思議なことに緑色だった。さっきまでの橙色と目のような模様は消え、部屋で巻き起こる突風に耐えながら必死で羽ばたいている様子だった。
緑ということは、つまり驚異ではないということだ。魔法カナリアの危機感値の精度はかなり高い。そうなると今起きている現象は、危険なものではないということだ。
逃げるべきか、それともここに留まるべきか。逡巡している間に光と風は止み、部屋は急に静かになった。
「僕は目覚めたのか……」
人の声がした。石棺の中からだった。
「……誰! そこにいるの?!」
「どうやら君が僕の主人らしいね」
アイーシャは突然の言葉に何も答えられず、ただメイスを構えて魔導人形を睨んでいた。
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