第7話 事件 エレナ 01
ラステア王国王宮では現在、大きな混乱が巻き起こっていた。その混乱の中心にいるのが、ラステア王国第3王女エレナキイラ・ジヘムーアである。
ここは王宮にある彼女の部屋だ。しかしそこにいるはずの彼女の姿はない。彼女は忽然と姿を消してしまったのだった。そしてかわりに王女の寝室にいたのは……。
真っ赤な肌をした巨大な蜘蛛のような化け物だった。蜘蛛のような見た目だが、顔だけは人間のように見えて気持ち悪い。
「姫様……」
彼女の世話係として付いているメイドの少女は心配そうに呟いた。すると突然扉が開かれ、中年の男性が入ってきた。彼は近衛兵長のダレン・オーウェル。彼女付きの近衛騎士であった。
ダレンは部屋の中にいた異様な存在を見て一瞬驚いたものの、すぐに剣を抜いて構えた。
その魔物は真っ赤な蜘蛛ような姿をし、全身から黒いモヤのようなものを立ち上らせている。蜘蛛の魔物は、部屋の壁に張りついてこちらの様子をうかがっている。
襲ってくる様子はないが、いつ動き出して襲いかかって来るかわからない。油断はできない状態だった。
「早くこのことを知らせにっ!」
素早くメイドに伝えて避難させつつ、剣を構えながら考える。
――姫様は?
こいつは何者なのか?
なぜここに現れたのか?
…そんなことを考えつつ、ダレンは目の前の存在を見据えていた。
赤い蜘蛛の魔物は、しばらくこちらの様子を見ながらじっとしていたが、やがて口を開くと
「グギ・・・ ウギギギ・・・」
とても苦しそうにうめいているように見える。苦しみに耐えかねたように叫ぶと、いきなり飛びかかってきた!
――速い! それに力が強い!?
ダレンは剣を振りかざし応戦する。
「くそぉおおおっ!!」
ダレンはメイドに叫びながら蜘蛛に飛び掛かる。
「はぁあああああっ!!!」
気合とともに振り下ろされた剣撃は、相手の胴を捉えたものの、そのまま勢いよく跳ね返されてしまった。
ダレンの渾身の一撃でもダメージを与えることはできなかったようだ。相手は怯むどころかさらに怒り狂ったかのように、今度は前脚を振り上げてくる。
「ぐぅおおおおっ!」
それを受け止めようとしたダレンだったが、あまりの力強さに弾き飛ばされてしまう。壁に叩きつけられそうになったところをなんとか踏みとどまるが、体勢を立て直す間もなく次の攻撃が来る。
「おわあああっ!!」
再び強烈な鋭い爪の攻撃を受け、床に転がされてしまう。
「くそっ! なんてパワーだ! この化け物が!!」
その間も怪物の攻撃は続く。
「うおっ! くそぉっ! はぁっ! ぬおぉっ!」
必死に避けようとするのだが、相手が速すぎて全く対応できない。
「あああっ! クソッたれぇえーっ!!」
何度も攻撃を受け続けついに限界が訪れた。
「ぎゃあああっ!!」
ダレンの悲鳴が響き渡った。
その後、王宮では今回の事件の箝口令を出し関係者への事情聴取などを行ったが、結局詳しい情報を得ることができなかった。
エレナ王女の行方については未だ不明である。
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