七夕編1話

「見て!変な木が立ってる!」

「ああ、そう言えば旅人が言ってたな」

「旅人さん?」

「ああ、ミアは見なかったか?」


 今日はざわざわと騒がしい。


 市場もいつもよりも人が多かった。


 目敏く笹を見つけてしまったミア。


 笹を指さして笑うミアも、首を傾げるミアも可愛らしい。


「遠い遠い場所にある東の国の文化らしい。タナバタ?だったかな。こっちの言葉で言いやすいように変えると星祭りだな」

「遠くから来たんだね」

「そうだな。この細長い紙に願い事を書いて、ササに結んだら願い事が叶うらしいぞ」

「ほんと!」

「ああ」


 幸せそうに笑うミアの頭をくしゃくしゃと撫でる。


 ミアが幸せそうなことが何よりも嬉しい。


「星祭りは、恋人が年に1度だけ会える日らしい」

「年に1度は悲しいね」

「だな。年に1度だけしか会えないのはすごく悲しい。けど、会えない日が長い分、会える日を大切に思えるのかもしれないな」


 俺がそう言うと、ミアはクスクスっと笑った。


「ヒュウって案外ロマンチックだよね」

「そうか?」

「うん!」


 俺がロマンチックだか何だかは正直どうでもいい。


 ミアが喜んでくれるなら何でもいいのだ。


「参加してみるか?」

「いいの?」

「やってみたいって顔してるぞ」


 じっと見つめて、やってみたいと言わんばかりの顔をしている。


 まあ、たまには、こんなのもいいだろう。


 ミアにだって自由に願いたいことはある。


「紙は……あ、リズさん達だ!おーい!」


 ミアが大きく手を手を振っている先を見ると、リズが頭を下げていた。


 頭を上げたリズは、連れと共に俺たちのもとに歩いてくる。


「リズ、ルイ、元気そうだな」

「ミア様、ヒューズ様も。また、俺に稽古をお願いします」

「ああ、夕方ごろにな。涼しくなってからの方が身体の負担も軽いはずだ」

「はい。夕刻に参ります」

「私も参りますね」

「ああ、ミアを頼む」


 リズが来てくれるのならば、ミアの相手は大丈夫だろう。


「ところで、ミア様は何をお探しで?」

「紙を探してるの。星祭り、やってみたくて!」

「それはこちらですね。ちょうど机も空きましたし、書きましょうか?」

「うん!」


 リズは籠から細長い紙を取り出し、ミアに渡した。


「お願い事を書けばいいんだよね?」

「ええ。前日祭にササに飾って、祭り本番でランタンに短冊を括り付けて空に飛ばすんです」

「今日は前日祭?」

「いいえ。祭り当日ですが、まだ時間ではないのでササに飾っているんです」


 そう言えば、昨日から騒がしかった。


「今からでも、間に合う?」

「本番でランタンと共に飛ばせば大丈夫ですよ」

「ランタンの時間って?」

「夜ですね。すっかり暮れてしまった頃にあげると言ってました」


 今はおやつの時間だ。


 日が暮れるまでまだまだ時間がかかる。


「ヒュウ」

「一回家に帰るか、このまま村をブラブラするかどっちがいい?」

「村にいたい」

「分かった。カフェにでも行くか?」

「うん、行く!リズさん達も一緒?」


 リズの方に目をやり、首をこてんと傾げたミアは、誰よりも可愛かった。


「是非」

「やった!ヒュウ、行こう!」


 俺の手とリズの手を取り、勢いよく引いて前に行こうとする。


「ミア、落ち着け」

「ミア様、カフェは逃げませんよ。それにあまり急ぐと怪我をなさいますから、落ち着いて参りましょう?」


 リズの言葉を聞いたミアは落ち着いて、淑女のように歩き出した。

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