改元下の恋人たち ——〈自然主義者/優生工作者〉の時代
渡邉 清文
梗概およびアピール文
●梗概
近未来の日本。皇室は東京を離れ、伊勢と出雲の二朝に分裂して各々の独立国となっていた(伊勢と出雲が、イタリアに対するバチカンのような国になっている)。
大晦日の東京に、伊勢の皇女と出雲の皇子が来ていた。本作は二人の視点を交互に繰り返しながら進行し、大晦日の夜から新年までの時間を描く。
出雲の皇子・翔太は年末の都内で何人もの女を抱いていた。出雲朝は後継候補の男子に自由に女を抱かせ、子を産ませ、大勢の男子を確保した中から後継者を選ぶ〈自然主義者〉である。
いっぽう伊勢の皇女・晶子も羽田から入国し、都内を目指す。伊勢朝は医療テクノロジーによって男女の産み分けをおこない、優れた外見・内面の設計を遺伝子レベルでおこなう〈優生工作者〉である。
晶子は、東京に来ているはずの翔太を探し求めていた。翔太が遊んでいたパーティ会場で二人は遭遇し、結ばれる。伊勢朝の女性皇族は政略結婚のために生まれ、育てられていたが、優秀すぎる晶子はその生き方を拒否し、自ら皇統の血を残すために翔太を探していたのであった。
ふたりはパーティ会場を出て、安全を確保できる翔太の隠れ家へ移った。二人だけでいると、鳴り響いていた除夜の鐘が静まり、弔いの鐘が鳴り響いた。それは、出雲朝の帝が崩御した知らせであった。翔太は出雲朝で帝が変わった時の、それ以外の皇族の運命を晶子に語る。
皇太子が新たな帝として即位すると、他の男子後継者とその子供たちは全員排除される。そうすることで、無用な政変が起きないようにしてきたのだ。今までの身辺警護が、刺客に変わる。長男ではない翔太が生かされてきたのは、皇太子に何かあった時のためであり、無事即位すれば、その運命から逃れられるとは思っていなかった。
刹那的に、投げやりに生きてきた翔太だったが、晶子と結ばれたことで気が変わった。二人は刺客を相手に大暴れする。深夜の東京は戦場となった。しかし翔太は初日の出を見ることなく生涯を終える。
●アピール文
本作は、ゲンロンSF創作講座の第4期の受講を申し込み前に、自分は過去の課題でアイデアを思いつけるか、小説を書けるかを確かめるために書いた作品です。課題としては、第3期・第8回のテーマ「「天皇制」、または「元号」に関するSFを書きなさい。」を選択しました。
なお、本作を第6期・第2回課題(https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/subjects/2/)に対する提出作品として、裏SF創作講座へエントリーいたします。
執筆時期は2019年(平成31年)1〜3月頃、元号が令和に切り替わる直前の時期になります。タイトルは、「〜の恋人たち」という恋愛ものあるあるな前半部に、ブルース・スターリングの〈工作者〉シリーズの短編「〈機械主義者/工作者〉の時代――二十の情景 LIFE IN THE MECHANIST/SHAPER ERA: 20 EVOCATIONS」を参照した後半部を合体させたものです。この「二十の情景」同様に、数行の断章を20個重ね、奇数章と偶数章で二人の主人公――男性と女性――の視点を交互に繰り返しながら進行する形式をとっています。
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