79話 クロノの行方
「洞窟から脱出した時に仲間から置いていかれまして、お金もなくて困っていたら村長さんがあの見張り小屋を貸してくれて……」
「見張り小屋?」
「ええ、洞窟に不法侵入する輩がいないか見張るために作られたらしいです。ただそんなことも滅多にないので」
今はもう見張り番も置いておらず使われなくなった小屋をウィアードは住処として与えられたと語った。
「それで一応、夜に見回りとか、山菜取りがてら見回りとかして給料代わりに食料や日用品を頂いたりして」
「暮らしているって、わけか。トマスさんと似た境遇かと思ったけど全然違うな」
レックスが悪気なく呟く。そもそも冒険者を自分の意志で引退したトマスとクビになったウィアードはその時点で全然違うが、言葉に出して指摘するのは止しておいた。
なんだろう、昔の自分と同じ顔のせいか彼の境遇を聞けば聞く程気分が沈んでいく。
それを振り切るように俺は別の質問をした。
「なら最近ローレルの街に行ったことはないか?」
「えっ、僕はないですね。あっ、でも昔は行ったことあります」
「……そうか」
ならウィアードは巨大スライムには関わっていないだろう。他のモンスターテイマーを探さなければいけない。
俺が考え込んでいると今度はレックスが彼に尋ねた。
「なあ、洞窟を見張ってるっていうなら中に入った連中とか最近いなかったか?」
この村の洞窟目当てに冒険者が沢山来ているという噂を聞いてここに来たんだよ。そう馬鹿正直に自警団の青年が話す。
その無防備さを叱りたくなったが後の祭りだ。
「洞窟に大勢の冒険者が……申し訳ないです、僕は見てないですね」
小屋で寝ている間とかに入ったかもしれないですけど。ウィアードの返答にレックスは目に見えて気落ちする。
「じゃあローレルの街の冒険者連中は、どこへ消えたっていうんだよ……!」
「もし洞窟に来てないとすれば、ローレルからアキツ村までの移動時に何かあったのか?」
アキツ村に来てくれと誘った相手が、目的地へ送ると言って別の場所に冒険者たちを馬車などで連れていく。
迷子相手の誘拐を思わせる手口だが、この線も確認しなければいけないのか。しかし、どうやって。
俺とレックスが揃って険しい顔をしていると森で暮らす魔物使いはちらちらとこちらを見て来た。
何か言いたいことがあるのだろう。慣れ親しんだ己の表情にそう察して俺はウィアードに話しかける。
「他に気になったことがあるなら何でも言ってくれ」
「あ、はい……その、冒険者の話じゃないかもしれなくても……」
「構わない」
「あの、実はですね、見間違いかもしれないんですが……」
「いいから」
少しだけ苛立ちながら俺は魔物使いに話の続きを促す。
「今日森の中を凄い速さで駆けていく男の子、みたいなのを見かけて……」
行き先が洞窟の方角だったので追いかけたんですが、見失ったきりなんですよね。
ウィアードが自信なさそうに話した内容に俺とレックスは顔を見合わせた。
本日アキツ村に現れた凄い速さで走る少年らしき存在、それはほぼ間違いなくクロノだろう。
「それで、僕の目の錯覚とか、幻覚だったら良いんですけど、そうじゃなかったら、あの」
「……なんだ」
「その、もし洞窟に入ってしまったら、僕が止められなかったってことになるので、困っていて」
確かウィアードは洞窟の見張りをする約束で小屋を借りているのだったか。確かにそれは困るだろう。
レックスが口に出して同意する。
「それはそうだろうな」
「そ、そうなんです。なので村長にばれる前に、洞窟の中の確認を、手伝って頂けたらと……」
お二人とも強そうですし。洞窟に入りたいみたいですし。
おどおどしながら頼みを口にするモンスターテイマーの顔は汗だらけで目がぎらついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます