70話 教団の活動
「……
「知らない」
「なあんだ、じゃあこの話はおしま~い」
そう言って部屋から出ていこうとするノアのマントを慌てて掴む。
「いや待てよ、やばい集団なら俺だって知っておくべきだろ!」
「知るってことはねえ、関わる可能性を高くする行為なんだよー」
華奢な体型に似合わない力で万能の英雄は俺をぶらさげたまま歩いていこうとする。
言いたいことはわかる。その変な教団に関わるなということだろう。
俺はノアの言葉に反論した。
「そんなこと言ったって、どうせ向うから関わってくるだろ」
「どうしてそう思うんのかな~?」
「それは……なんとなく?」
「なんとなくじゃ教えられないね~」
足を止めて話を聞いてくれるようになったものの、ノアは情報を漏らす気はないようだ。
しかし俺は彼が口にしたその教団の存在が気になっていた。
ノアがこれ以上話さないというのなら別ルートで調べるつもりだ。
そう結論を出すと俺は性別のわかりづらいノアの美麗な顔に向かい口を開いた。
「ノアが教えてくれないなら他の人間から聞き出そうとしたり調べたりするがいいか?」
俺の言葉に彼はあからさまに嫌な顔をした。
短く舌打ちをして「そうきたか」とこちらを睨む。
なんとなくだがノアが語尾を緩く伸ばしてない時は本音を言っているような気がする。
もしくは精神が追い込まれているというか。
「そうすると俺を含め献身の灰教団について知る人間が増えると思うけど……?」
「はい駄目、それは絶対駄目。わかったよ、私が話してあげる」
でもそれで知った事柄を君がクロノちゃんや他の人に話すかは自己判断だよ。
そう拗ねたような顔で言いながらノアは半分出て行きかけた部屋に戻り扉を閉めた。
「献身の灰教団っていうのは、なんだろうねえ、異常集団なのは確かなんだけどねえ~」
「そんなに複雑な組織なのか」
「いやわかりやすくはあるんだけど、意味が分からないというか、いやそれもわかるか……」
本当に説明が難しいのだろう。ぶつぶつと考えを纏めるように独り言を呟き続けるノアを俺は眺めた。
献身の灰、頭の中で何回か繰り返したが心当たりのない名前だ。
中学時代の俺が命名した訳ではなさそうだった。
「まず、どんな弱者でもきっかけがあれば強さに目覚めることが出来るっていうのが教団の考えで~」
「強さ……戦士とかが崇めてる宗教なのか?」
「信徒はいるとは思うけど……それで、その手助けをするのが彼らの使命らしいね~」
「手助け?ノアが俺たちにしてくれてるように修行をつけてやるとか?」
「一緒にしないでくれる?」
俺が軽い気持ちで言った台詞をノアは絶対零度の声で叩き潰す。
溜息ですら人を凍らせそうな様子で万能の英雄は組織について語った。
「奴らの手助けっていうのは、対象をどん底まで落として強い怒りや憎しみを引き出すことだからね」
正直、何を言っているのかわからなかった。ノアの説明が複雑だったということではない。
意味が分からないのだ。なんでそんなことをするのかという理由が分からない。
「たとえば幸福な一家がいる。一人除いて全員殺す。生き残りを上手く誑かせば復讐の鬼の出来上がりってわけ」
「訳が分からない……!」
「私もわからない。ただろくでもない集団だというのは思い知っている」
「そんな奴らに目をつけられたら最悪じゃないか、そいつらを見分ける方法とかないのか?」
予想していたよりもずっと極悪集団だった存在に恐怖と怒りを感じる。
「彼らは大抵正体を隠すからね。行動で判断するしかない。いつも出遅れるけどね~」
「タチが悪いな、しかし人間を強くしたいにしても何でそんな真似を……」
いらいらしながら組織について文句を言っている俺をノアは腕組みをして見つめていた。
彼はその組織を潰そうとは思わなかったのだろうか。
英雄であるノアであっても壊滅は難しかったのか。万能の英雄は薄い唇から言葉をぽつりと落とした。
「彼らの女神が好きなんだってさ、そういう堕ちた人間が彼女の愛する対象らしいよ」
「……その女神、色々歪んでないか?」
「神なんて大抵歪んでいるよ、うんざりするぐらい長生きしてるだろうしね~」
ノアの言葉に俺は眼鏡の似合う知的美女を思い出す。
彼女は色々拗らせてそうだが歪んではいないだろう。優しいし美人で可愛いし。
「全員がそうじゃないと思うぞ、というか多分その神だけ邪神なんだと思う」
そう言いながら俺は教団のことを考え続けていた。
幸せな一家を破壊することで復讐者という強者を生み出す。
たとえば俺が獲物の場合なら灰色の鷹団を崩壊させるといったところか。
そうすると原作の展開とほぼ同じになる。俺は想像を働かせた。
クロノを追放した後、残りのメンバーでのクエストが失敗し続けパーティーは解散。
アルヴァはクロノを逆恨みしながらダンジョン内で孤独に息絶える結末だ。
もしこの時献身の灰教団とやらがアルヴァに接触してきたなら、彼はクロノへの復讐の為にその手を取るだろうか。
取るだろうなと、俺は自らの掌を見つめながら暗い気持ちになった。
そして、一つ気づいたことがある。
献身の灰教団は既にこの街で悪さをしていたのではないだろうか、もう何年も前から。
俺はノアに浮かんだ考えを話した。
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