第8話 女神のお気に入り

 気が付けば俺の外見も地味な中学生から赤髪の青年の姿に変わっていた。

 そして神様の真似事が出来るという発言の通り、教師から女神の姿になったエレナ。

 変身した彼女は純白のトーガを身に纏い、耳もエルフのように細く尖っている。

 その額には大きな青い宝石嵌め込まれたサークレットが飾られていた。

 とても神秘的で美しい姿だ。


 しかし眼鏡はそのままなので若干コスプレ感が否めない。

 だが涼し気で知的な美貌を持つ彼女に銀縁の眼鏡はとてもよく似合っている。

 俺がそんなことを思っていると、女神はわざとらしく咳払いをした。 



「この眼鏡は知の女神としての象徴です。……コスプレみたいで悪かったですね」


「えっ」


 ギロリとレンズの奥から美しい瞳で睨まれ俺は慌てて首を振った。

 心を読まれたのかという焦りと女神を怒らせたのではという不安で、リアクションが激しくなってしまう。


「でも私の外見に対して高い評価を頂いたので……それ以上の追及は止めてあげます」


「あ、有難うございます」

 


 尖った耳の先をほんのりと赤くして女神はこちらを許してくれた。

 俺の考えを見透かしていることを隠す素振りはない。

 彼女がビシっとしたスーツ姿から軽やかな薄衣に衣装替えしたことに対し変な妄想をしなくて良かった。

 スレンダーだが痩せすぎという訳でなくメリハリのある体型なのでどちらの服もよく似合っている。

 俗にいうモデル体型という奴だろうか。知の女神を名乗るのに違和感のない美貌とスタイルだ。

 つい余計な事を考えてしまった俺は再度エレナから睨まれる羽目になった。



「わ、私のことよりも貴方のこれからを考えてください!」


「はい!申し訳ございません!」



 俺はペコペコと平謝りする。エレナの言う通り、彼女の外見より俺の今後を考えるべきだ。

 じゃないといつセクハラ扱いされて神罰を受けるかわからない。

 質問だけを頭に浮かべるよう努力しながら俺は口を開いた。


 

「あの、さっきの、失敗世界の救世主ってなんですか」



 とりあえず気になったことを尋ねてみる。エレナは俺の問いかけにすぐ答えてくれた。



「恐らくですが、女神である私が滅ぼそうとした世界を貴方が救った行為で称号を得たのだと思います」


「あんな簡単なやりとりだけで?」



 魔王を倒した訳でも世界を脅威から守ったわけでもない。

 世界をリセットしようとしたエレナを止めただけだ。

 俺の疑問に女神はそうですよと頷く。



「それでも世界を救ったことは事実ですから」 



 貴方があの世界を生み出すきっかけになり、滅びを阻止したのは事実なのです。

 それを知る人間はあの世界には存在しませんが。女神は玲瓏な声で告げる。



「知らせたいならあの世界の王や最高聖職者たちに夢で告げますか?アルヴァ・グレイブラッドは救世主だと」



 その日から貴方は世界中で勇者扱いされると思いますよ。

 エレナの言葉に俺は少しだけ考え込み、そして断りを口にした。



「いや、それはいいです。俺的にはまだ何もしてないですし」



 一時的に救世主や勇者扱いされても、称号に見合う人間でなければ失望されるだけだ。

 俺の言葉に、エレナは世界を救ったのは事実なのにと少し不満そうだった。

 しかしその後何か良い事を思いついたような表情を浮かべる。 


   

「では私個人の判断ですが、貴方に知の女神の祝福を差し上げます」


「えっ」


「大丈夫です、メリットしかありません。そこまで極端な加護ではないから悪目立ちもしませんよ」



 せいぜい女神に気に入られている人間だなって一部の人間に思われるぐらいですし。 

 これは先程の高位スキル付与とは別枠だから気にしないでいいですよ。

 そう眼鏡美女に笑顔で畳みかけられ俺は頷くしかなかった。

   

 


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