7_夏めく日差し、その影で
退院おめでとうございます、看護師さんたちに言われながら入院中に増えた荷物を抱えて病室を出る。警察学校を休学していた間の手続きなんかもしないといけないし、住んでいる部屋はずっと帰っていないから埃だらけだろう。これからやることは山積みだと思うと、思わずため息がでた。
でも。それ以上に、警察官になって、あの人の隣に立つんだという想いが強くあった。元々そのために目指した職だ。ずっとその気持ちで進んできたが、それでも途中で挫けそうになることもあった。けれど、その度にかつて俺に手を差し伸べてくれたあの人を思い返して頑張った。
考えながら歩いていたら、気付けばもう病院を出るところだった。自動ドアをくぐって外に出れば、初夏の眩しい日差しが目に刺さる。それに一瞬目を眇めて、それから改めて空を見た。
今日は快晴だ。あの人もこの空の下に居るんだという実感が、今はある。
十年前、たった数ヵ月関わっただけの人をずっと追いかけているなんて、鼻で笑われるかもしれない。でも。
でも、だって。孤独だったあの時、俺を救ってくれたのはあの人だけだったんだ。
ふと、あの時廃ビルの地下で、千蔭さんが助けに来てくれた時のことを思い出した。あの時は本当に極限状態だったから、都合の良い幻覚が見えたのかと思っていたのに、それは現実だった。
病院を出て、日常に戻り始めたからだろうか。今になって実感がついてくる。連続殺人事件に巻き込まれたこと、記憶喪失になったこと、千蔭さんと再会したこと。
心の中で反芻すれば、それがかえって原動力になる気がした。憧れているあの人の横に立つために、恩を返すために。そう思えばこそ、目先に控えている面倒事でさえ、頑張れる気がした。そして、改めて事実を噛みしめる。
──ああ、俺はまた、アンタに救われたんだ。
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