2_夏めく日差し、その影で
ざわざわ、人口密度の高い捜査本部は、ざわめきに満ちていた。
そのざわめきが、ふと収まる。視線を上げれば、本部長が本部に入って来たところだった。
「皆、お疲れ様。これより、捜査会議を始める」
よく通る声が響けば、すぐに本部内に「はい」と野太い返事の合唱が響く。
「今回発見された被害者の名前は、三宅猫。二五歳男性で、現在警察学校に通っている最中であることが判明した。また、今までの被害者と同じように、強姦されてから首を絞められていたこと、切り抜きで作られた名前の紙があったことから、連続殺人事件の新しい被害者と見ていいだろう」
本部長がそこで一度区切って、ホワイトボードへ視線を移した。
「今回、被害者の発見が早かったことにより容疑者は現在三名まで絞られた。まず一人目。植田学、都内のIT企業に勤める二七歳男性だ」
言われたそれに合わせて、メモの上の文字をなぞる。プログラマー兼デザイナーで、そういった職の割には体格が良いのが印象的だった。一人目の被害者である男子中学生の親戚で、内気な彼と交友のある少ない人物として捜査序盤から容疑者として挙がっている。
「続いて二人目、青木英樹。都内在住の会社員で、三二歳男性」
ぺらり、手帳をめくって、二人目の容疑者のメモのへ移る。以前事情聴取に向かったが、どこにでもいる一般的なサラリーマン、という印象だった。二人目の被害者の女性の上司であり、絵を描くことが趣味であると周囲によく話していたという情報がやや怪しかったか。
「最後に三人目、小林直樹。二一歳男性で、都内の美大に通う美学生だ」
次のページへ視線を移す。細身だが武道経験あり、とメモは続いていた。三人目の被害者の女性と同じ大学に通っていたことから捜査線上に上がり、そして彼女に想いを寄せていたような言動があったことから容疑者となっている。
「そして、全員アリバイが無い」
続いた言葉に、思わずため息をつきたくなった。そう、皆アリバイが無いのだ。そして、最初の被害者である少年以外は、皆交友関係が広かったことから中々容疑者が絞り込めていない。
「とは言え、今回新たに発見された被害者は生きている。彼が目覚めれば、すぐにでも犯人について聞くことが出来るだろう。それまでに我々に出来ることは、裏付けとなる情報を集めることだ」
本部長はそこで一つ息を吐いてから、視線を鋭くして言った。
「地道な作業になるが、これからも頑張ってくれ」
始まりと同じように野太い声の合唱が響いて、捜査本部は一時解散となった。
持ち場の確認をしながら、僕も立ち上がる。そうしながら、どうしてか嫌な予感に襲われた。
この事件がすぐに解決することは無いのではないか、なんて。
縁起が悪い。頭を振ってその予感を脳内から飛ばした。
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