第2話 真奈子、夢の中 ~異世界、きたー!~

 真奈子がぱちり、と目を開けると。


「……およ?ここは?」


 そこは、ヨーロッパのような異国情緒溢れる街並み。


 そして街を賑わしているのはまるで戦士や魔術師や商人、中世の市民といったようなRPGの世界の多国籍な人達と、そして。


 猫耳、犬耳、兎耳、尻尾の生えてる人達。

 犬、猫、馬、牛とは少し見た目と大きさが違う動物達。

 

(い、異世界?!夢だよねきっと……でも、すごい!私のイメージとは思えないくらいに色鮮やかで街が息づいてるぅ!やった!嬉しい!)


 真奈子は喜びつつ、でもでももしかしてもしかすると私死んじゃってないよね、寝てる間にパルクールぅ!とかいって岸壁から海に飛び込んだりしてないよね……と自分の身体をペシぺシポンポンぐにぐにむにーとしていると。


 視界の右すみっこに、とある単語が浮かんでいるのを発見した真奈子。


( ”MENU”。こ、これはまさにRPG!うわーい♪)


 早く早く!でもどうやって出てくるのかしらん!

 ワクワクで目を閉じて、メニュー、と念じる真奈子。

 何も起こらない。




 メニュー、と呟く。

 何も起こらない。

 

 メニュー、とゼスチャーをする。

 何も起こらない。




 人がざわりざわり、と避けて歩いていく。


「ままー。あのひとなにしてるのー?」

「フレイラ、見ちゃダメ!あれは変態さんよ!見たら変態さんになっちゃう!」


 そんな母子の言葉をよそに、目を閉じてメニューと表示されているあたりの自分の目の隅っこを指で、ぐんむぅ!と押した真奈子が地面をゴロゴロとのたうち回る。


「ままー?」

「いやあああああああー?!」


(何よ、開かないじゃん!ー!)


 ぶおん。


「ほわ?」


 真奈子の心の絶叫とともに、真奈子の瞼の裏にメニューが映し出されたのだった。







「え、すっごい!魔法何でも使えるし、魔法関係のステータスも全部9999だ!」


 ざわり、ざわざわ。


 ぶつぶつと呟き、目を閉じて正座をする怪しい人間、真奈子。

 時折、うひひむふふ、とほくそ笑むので、尚更である。



 

 ぴしゃあ!

 ばたん!

 おい、警備隊を呼んで来い!ありゃあ、変態だ!




 真奈子の半径100メートルの人影は消え、店が閉まっていった。


「で、魔法の使い方……え?『マジカルキーボード』で呪文を入力して発動?」


 真奈子が、えーなにそれーちょっとーなんかへんーと唇を尖らせた瞬間。


 

 暴風が吹き荒れた。

 耳をつんざく咆哮と、人々の叫び。


「きゃあ!な、なに!なんか竜っぽいの来た?!……街が風と咆哮で酷いことに!」


 真奈子の眼前に、黒い大きな竜が降臨した。


 真奈子のメニューのログには、『黒竜王グエンダ出現!』と表示されている。


 LVは901。


 魔法、物理耐性と防御力が、四桁の後半。


(魔法、効かなくない?!どうすんのよこれ!)


 すると。


 真奈子の周りに球体が出現し、風を防ぎはじめた。

 その表層には、言葉のような何かが無数に浮かび上がっては流れ続ける。


(え?キーボード出してもないのに結界?)


 再度、ログに現状が表示された。


『パッシブスキル ” 真奈子の変態領域 ”が発動!』


「もやもや感っ……!ココだ!行くよ!『マジカル!キーボーオオオオド』!!!」


 そう叫んだ真奈子の眼前に、キーボードが出現した。


 家電量販店なら、どこにでも売っていそうなものである。

 しかもキーボードの上部コードが途中の空間で消えていてツッコミどころ満載だ。


 これはひどい……と真奈子は唇を尖らせながらもメニューをスクロールさせる。


「なんかすっごい魔法!あの防御を抜け……ほっほお?」


 真奈子は『魔法一覧』に浮かび上がった魔法を見てほくそ笑んだ。


『竜神召喚 消費MP2000』


 真奈子の最大MPは9999。

 パッシブで減っていっているとはいえ4回は使える。

 しかも『竜神』である。

 

「絶対、竜より強いよね!いくぞ!」


 真奈子が、そう気合いを入れた瞬間。


 人々の願いが、意識がなだれ込んできた。







 どうか、変態様。私達をお守りくださいませ。

 あの変態様に女神のご加護があらんことを。

 へんたいさん!がんばって!

 変態様、変態様、変態様、変態様、変態様、変態様ぁ!






「……竜神よ、このモヤンとしている理不尽な世界を……くぅ!何か納得行かないけどぉ、竜を倒せ!」


 ひどい言いがかりだよっ!と自分の変態性から目を逸らした真奈子は、メニューに示された文字を見た。




『竜神召喚……下記呪文を入力してください!』


” この世界の原初たる 竜の中の神

 我はただ 願い捧ぐ

 その神の力で 敵をうち滅ぼせ ”




「なーんだ!これなら、いける!ふふふ、タイピングマスターでD−に昇格した私を舐めるなぁ!目をつぶっても30秒で入力できるんだからねっ!」


 自らの発言と釣り合わないドヤ顔で真奈子は両腕を前に伸ばした。


 さあ、奏でるよ?

 私だけの調べを。


 








 じょのせ

 

 ブツン!


 音とともに、画面が落ちたように真奈子の視界が真っ暗になった。


『竜神の怒りを買いました

” 竜神の意趣返し ”が発動しました

 この世界は滅びました

 GAME OVER』







「………………え?今のナシ!も、もっかい!!もう1回ハーレムチャンスぅ!!」



 朝の光の中で飛び起きた真奈子は、眠れぬまま30分ほどベッドで転がり続けた。



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