第22話 東京制圧編(6/8)冬太と二人きりで過ごす夜


 宿泊先はビジネスホテルで、夏海と秋、冬太と春木がそれぞれグループになり、それぞれの部屋へと分かれた。春木はビジネスホテルに泊まるのが人生で初だったために、何もかもが新鮮に見えた。


「俺ここー」

 冬太はツインルームに入るなり、荷物を放り出して、ベッドに倒れ込んだ。

 春木も荷物をベッドのそばに置き、明日の準備を始める。

「おい春木、トイレにしょんべんするから見といてくれ」

「なんで冬太先輩のトイレを見なくちゃいけないんですか」


(そんな汚いところ見たくない)


「ちぇっ、なんだよ連れないな……」

 冬太は唇を尖らしながら、トイレへと向かった。

 ジョボジョボと小便の音が部屋に響いてきたので、気になった春木は、トイレの方を見ると、扉が開け放たれていた。


「ちょっ、扉ぐらい閉めてくださいよ!」

 春木が思わず叫ぶ様を見て、冬太はゲラゲラと笑い始める。


(クソッ。この野郎、わざとやってんのか)

 

「春木、一緒に風呂入ろうぜ」

「なんで一緒に入らないといけないんですか?」

「だって、水とか勿体無いだろう? 俺たちもSDGsをやるんだよ」

「嫌ですよ! 先に入ってくださいよ!」


(なんで二人になるとダル絡みしてくるんだよ……)


 春木は冬太のテンションに心底うんざりしながら、冬太がバスルームに入ってゆくのを見送った。


 ………………………。


「おーい春木、なんか暑くないか?」

「それは冬太先輩がベッドの中に入ってるからでしょ?」

 春木がシャワーから出ると、すでに冬太は掛け布団の中に潜り込んでいた。


「春木、暑いぜ。布団めくってくれよ」

「嫌ですよ、自分で捲ればいいじゃないですか」

「いいから、暑いからはやくしてくれ」

 春木は嫌々布団を捲ると、冬太は全裸になっていた。

「うわっ、何してるんですか」

 春木の反応を見て、冬太はやはりゲラゲラとツボに入ったように笑い続ける。


(深夜のテンションでおかしくなってるのか。っていうか、明日は早いから、早く寝たいんだけど)


 春木は冬太のテンションにうんざりしながらも、

「もう明日も早いから、電気消しますよ。もう寝ますよ」

 冬太に念を押して、電気を消した。

「おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


「………………………」

「………………………」


「……春木、暑いぜ」

「もう、それさっきやったじゃないですか」

「ちぇっ」

「………………………」


「………………………」

「………………………」


「……今頃女子ふたりは何してるんだろうな?」

「……もう寝てるんじゃないですか? 知らんけど」

「……今頃、一緒のベッドに入って、お互いが気持ちよくなることしてるんじゃないか?」

「……冬太先輩ってそんな趣味あったんですか?」

「……いまエッチな想像しただろ?」

「……してませんよ」


「………………………」

「………………………」


「……ちなみに気持ちいいことってマッサージのことだぜ?」

「……もういいですから。早く寝てください」


「………………………」

「………………………」


「……春木、暑いぜ」

「だから、それさっきやったじゃないですか!」

 

 …………………。


§


 翌日、冬太のせいで春木は全く眠れなかったが、しかし、旅は不思議なもので、いつもは朝に弱くても、旅先ではなんなく起きれたりするものなのだ。


 春木の体は疲れていても、心が疲れていなかったので、今日という一日を楽しみな気持ちで迎えた。

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