第16話 東京制圧編(プロローグ)


 朝7時に大阪駅、中央改札口に集合だった。朝に弱い春木はボーッとしながら集合場所に向かうと、秋がいた。彼女は白のワンピースを見にまとい、ストローハットを頭にちょこんと乗せていた。少し大きめのキャンパス地のトートバックを肩に抱えながら、一番はやく待ち合わせ場所に着いていた。


「おはようございます」

 春木はマルーン色の開襟シャツを羽織り、膝が若干隠れるぐらいの黒のハーフパンツを履いていた。

「おいっす〜」

「いつ着いたんですか?」

「さっき着いたところだよ〜」

 春木は腕時計を見ると、まだ6時54分だった。


「昨日は中々楽しかったね〜」

「そうですね、秋先輩の歌もダンスもめっちゃ上手でしたし」

「そんなことないよ〜」

 秋は少し照れながら言うが、そんなことはあると春木は思った。アイドルソングを歌いながら、キレキレのダンスを踊っていたのだ。圧倒されないわけがない。


「おいっす、お待たせ」と冬太の声がした。

「遅いよ冬太〜」

 冬太は白のポロシャツに、グレーのハーフパンツといういでたちで春木たちのもとにやってくる。


「ということは夏海がビリだ」と冬太が言うと、

「そんなことないわよ」と背後からヌッと夏海が現れた。

「うわっ、ビックリした」

 夏海はロゴの入った白いティーシャツと紺色のワイドパンツというシンプルな装いに、大きな黒いサングラスをかけていた。真っ黒だが目の部分だけ赤くなっている近○バファローズのロゴのキャップを頭にちょこんとのっけて、棒付きの飴をタバコのように咥えている。


「冬太が着く前に私が朝ごはんの飴を買ってたから実質3着なの」

 夏海はそう言ってサングラスを取ってキャップの上に乗せた。


「夏海先輩の帽子、近○バファローズのやつじゃないですか。いいですね」

 近○バファローズは大阪の人々に愛されたチームで、現在はオリック○・バファローズとしてその名を残すだけに留まるが、プロ野球で数々のドラマティックな死闘を繰り広げた魅力的なチームである。


「いいでしょ? 公式ショップで買ったんだ」

 夏海は誇らしげに帽子を春木の方へ近づける。

「このロゴ、かっこいいですよね」


「春木のそのシャツ、阪急電車みたい」

「えっ? マジっすか?」

 春木は慌てて自分のシャツを点検した。言われてしまうと阪急電車にしか見えなくなってしまった。春木の慌てふためいた様子をみて、夏海はケラケラと笑う。

「ウソウソ。よく似合っているよ」

「もう、なんなんですか」


「よし、みんな揃ったところで、あらためて今日の行き先を発表する」

 冬太は威厳を全面に出して、コホンと一つ咳払いをした。

「俺たちはこれから青春18切符を使って、東京へむかう!」


「「いえーい」」と夏海と秋が拳を突き上げるが、若干乗り遅れた春木は「おいーっす」と軽く手を挙げた。


「そういえば東京に行くのは初めてですね」

 春木は生まれてから関東方面に赴いたことは一度もない。テレビやスマホで情報を得ることはあるが、基本的に巨○とヤクル○が本拠地を構えていることぐらいしかしらない。


「東京は噂によると、関西弁で話しかけても日本語として通じないらしいよ〜」

 秋がわざとらしく頭を抱える。

「そんなわけないでしょ。それに、みんな標準語で話してるじゃないですか」


「阪○ファンだってバレると、市中引き回しの刑に処されるらしいわ」

 と、夏海が言った。

「いやいや、江戸時代のキリスト教徒じゃないんだから。現代日本においてそんなことあるわけがないですよ」


「「……」」


 彼女らは悲痛な表情を浮かべて春木から目をそらした。そこからは悲しみと心の傷が見える。


(えっ? マジなん? 東京って世紀末デトロイトメタルシティなん?)


 春木はとりあえずこのノリに乗っておこうと冬太にパスを出す。

「東京ってそんな怖いところなんですか?」

 春木は冬太に聞くと、冬太は頷いた。


「ああ、俺が前に行った時は、たこ焼き機を持っていただけで、大阪からのスパイだと警察に疑われて、拷問を受けたことがある」

「それは流石に嘘」と夏海はシンプルに指摘をする。

「それは長いしあんまり面白くない」と秋は冬太にダメ出しする。

「なんだよ、いきなりボケる流れになったから、必死に考えたのに」

 冬太はしょんぼりと肩を落とした。


 春木は冬太の肩を優しく叩いた。

「なんだよ春木、おまえだけは慰めてくれるのか?」

「いえ、慰めるふりだけでもしようかと」

「朝から冷たいなー春木は。慰めるならちゃんと慰めて」と冬太はタコのように春木に絡みついてきたので、春木は「おー、よしよし」と言いながら必死に逃れようとしていた。


「さて、一同のコミュニケーションが取れたところで……」

 冬太は少し間を開けてから、

「これから俺たちは旅に出る」と言った。


(先輩たちと長期旅行か……)


 朝の憂鬱から抜け出しかけていた春木はどんな旅になるだろうか? 楽しいものになればいいなとソワソワしていた。

「よっしゃー行くぞ、Lets go!青春18部!」


 冬太はさっそく青春18きっぷを取り出し、窓口の駅員に見せて、彼らは改札をくぐり抜け、9番ホームへと向かった。


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