Chapter.3

◆Chapter.3


〇ココア・モカのVtuber配信中・屋内(夜)

人物:藍里(Vtuberココア)・絵梨(Vtuberモカ)

   Vtuber配信中、藍里は3Dモデリングキャラ「ココア」。絵梨は「モカ」。

   ファンシーな喫茶をイメージした背景の前でキャラはにこやかに笑う。

   画面隣にチャット欄があり、視聴者コメントが流れている。


絵梨(モカ)「うん、そう! いっしょに住んでるよっ そのほうがふたりで四六時中いっしょにいられるもん」


   チャット欄(コメント):二人ともキャラデザかわいい!!

   チャット欄(コメント):声優さんみたいな声

   チャット欄(コメント):これから推します!

   チャット欄(コメント):えーガチの百合じゃん。一緒に寝てたり?


藍里(ココア)「あ、え、あ。えー、えーっと。寝るときね? あはは、やっぱり気になるよねーあはは。えーっと。いっしょに寝てるよ。いまの季節ふたりのほうがあったまるしねー?」


   チャット欄(コメント):ほんとの姉妹?

   チャット欄(コメント):24と17って歳の差が逆にリアル

   チャット欄(コメント):なんか、やらしい!


絵梨(モカ)「ふふ、変なこと考えちゃだめですよー。これ以上はですっ」


    ×    ×    ×


 (フラッシュ)

   藍里の自室(引っ越し前)・夜 

   引っ越し前のため運び出す段ボールが積まれている。

   送られてきた契約書面を眺める藍里。指でなぞりながら文字を読む。


藍里「Vtuber活動においては【atelier.K】ではなく、Vtuber事務所【P2P】所属とする」


藍里「転居、住居費、光熱費は【P2P】が負担……ここまではプロデューサーに聞いてた通り」


藍里「Vtuberとしての収益化までは無給……か。収益の20%くらいが私の給料になる……聞いてたけど結構シビアなんだよね」


藍里「声優としての給料なかったらやってけないね、これ。来月またアプリひとつ、サ終決まってるけどさ」


藍里「ん……。んん? 新人声優:高瀬絵梨と百合ユニットを組んでもらいます。住居は同居とし、設定上百合関係であることを通していただく――なにこれ!」


   契約書の最後の行、藍里は読まずにその文字を見つめる。

   【声優、水無月藍里としての活動は伏せ、Vtuberココアとして活動していただきます】


    ×    ×    ×


〇藍里・絵梨のマンション・リビング(夜)

   ダイニングテーブルに向かい合って座る藍里と絵梨

   絵梨、足を組んで高圧的に紅茶を飲む。

   藍里、バツが悪い表情で絵梨の顔色をうかがう。


絵梨「信じらんない! なにあれ。地声? 噛み噛みだし声作れてないし」


藍里「……だって、初めてで、チャット追うだけでも必死だったし――」


藍里「(――この子は完ぺきだったけど)」


絵梨「あー、もう。現役声優って聞いてたからちょっとは期待してたのになー、アタシの相手がこんな棒読みちゃんだったなんて」


   絵梨の小バカにした態度に藍里は机をバンと叩く。

   食器がガシャンと大きな音を立てる。


絵梨「なに? 怒ったの?」


藍里「……べつに(言ってることは正論だし、大人の私が感情的になっちゃだめだ)」


絵梨「言い返すくらいの根性見せたら? そんなんだからっ! ……いや。やっぱりいい。あんたのことにかまける時間はアタシにはないし」


   絵梨は何か言おうとした言葉を飲み込み、紅茶をすする。


藍里「(この子、ほんと性格悪い……でもいちばんは、言い返せない自分がムカつく)」


藍里「(百合なんてただの営業で、実際はこんなに仲が悪いわけで――)


絵梨「とりあえず。始めちゃったものはもう仕方ないし。これからふたりでやっていくんだから、ちゃんと声つくっといてくださいね、。あ、あと」


藍里「なに?」


絵梨「寝てるときの寝相わるすぎ。あんたの足、うっとうしくて寝れないの」


藍里「(いっしょに寝てるということだけは、本当なんだけど)」

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