第20話 王の帰還
王の帰還。
それが告げられると同時に、夜の静安に眠るようだった
「
大殿の壇の下に広がる回廊に囲まれた広場。そこに居並ぶ白い服を着た数千もの人々の唱和に迎えられ、金銀に煌めく輿がゆっくりと広場の中央へと進む。ファラはルントゥを従えて壇上に並ぶ華やかに着飾った
先導をする白い長衣に赤い冠を被った官吏が、輿を担ぐ兵士に合図を送り、広場の中央の壇に輿を下ろさせる。そして腰に提げていた角笛を吹いた。
その音で唱和が止まり、数千の人々が一斉に輿にむかって跪く。ファラのいる
「
先導の官吏のこの言葉に他の官吏が動き、輿を覆う三彩織りの鮮やかな飾り布が開く。その内から金銀に煌めく長衣の上に極彩色のケープを羽織り、頭上に赤い羽冠を頂いた男――
万雷の唱和が極まる。トゥパク・ユパンキはこれを鎮めるように手にする銀杖を掲げた。銀杖の先端を飾る大粒の
静寂の訪れを確かめるように左右に一度、目を動かしたあと、トゥパク・ユパンキは口を開いた。
「我、
大殿の壇上にむかい大音声で叫ばれたこの言葉に応じるように、壇上に跪拝する人々の列の間から一人の少年が進み出た。
「
金銀の箔で飾られた藍染めの長衣を身にまとった少年――ムガマ・オ・トウリは壇下のトゥパク・ユパンキにむかってそう答え、恭しく跪いた。トゥパク・ユパンキは鷹揚にうなずくと、手にする銀杖を三度、地面に強く打ちつけてから高く両手で天に掲げ、目を閉じて祈るような姿勢で神託を告げた。
「ここに
そこで跪くファラの顔が少し上がった。トゥパク・ユパンキは銀杖を下ろすと、壇上へと階段を上り始めた。その先にいるのはムガマ・オ・トウリ。ファラの目が強く王の顔を見据える。そこで彼女は息を呑んだ。
トゥパク・ユパンキがこちらを見た。
その視線が交わり、怯まずに見返すファラを嘲うように階段を上ったトゥパク・ユパンキは、跪くムガマ・オ・トウリの前に立った。
そして銀杖の先端に輝く黄玉をムガマ・オ・トウリの頭に当てて言った。
「
ファラはそこでトウリの肩がかすかに震えるのを見た。自然と握られた拳の内側で、爪が痛みを走らせる。
「
答えるトウリの声に、澱みが混じる。
「
濁りを含んだこの言葉にかつての彼の声にあった、春のように暖かく清水のように澄んだ響きを、聴き取ることはできなかった。
けれどファラはそのトウリの声を聴いて口元を緩める。その濁りの中に沈んだ鎖が繋がっていることを確かめて満足するかのように。
トゥパク・ユパンキはトウリを並んで立たせると、左手をその肩に置き、右手の銀杖を群衆にむけて掲げる。
「神託を受けし、ムガマ・オ・トウリの心を讃えよ!」
「
ムガマ・オ・トウリを讃える万雷の唱和の中で、ファラは決然としたまなざしでトウリと、その肩に置かれたトゥパク・ユパンキの手を見つめていた。
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