小六女子のシエスタあるいは挑発遊戯

其日庵

地獄へは一歩の踏み間違えで至ることもある

第1話


 エエそう……彼は、いい人でしたよ。つまり、どうでもいい人ってやつで……アッハハ……アハハハァ……。それはまあ引っ込み思案なヒトだった。いつもあたしの視線を避けていてね……小六の女子の目も正視できないんだから、お話になりません。


 あなたは、あたしの性質をご存知でしょ……天邪鬼で、向こう見ずなところがあるのは……だから、とうぜんあなたが想像したような悪戯はしました。つまり、彼があたしに惚れるように仕向けて遊んでましたとも……フフ……当たり前でしょ。


 まあ赤子の手をひねるようなもんでしたね。さっきもいったとおり、彼は、ピアノの家庭教師だったから……こういう手取り足取りのレッスンのさなか、上達して、それを先生のお陰ですゥなんてことさら感激してみせたら、イチコロですとも。


 アハハハハ……ッ……男ってどうしてこう、この女は自分が育てたみたいな幻想に酔い易いんでしょうねェ……敵がそう思っているであろうことを女がお見通しで、その感情を利用までしているなんて夢寐にも思ってないんだから、ホント笑える……。


 —―え? ……プッ……なにを言い出すかと思えば……ウフフフ……御冗談を……ああいうタイプの男を、あたしが愛するわけないじゃないですか……てか、そういう愛とか恋とかって感情を知ったのは、ずっと後になってからです。


 じゃあなんでって……そりゃアレです、こういう初心うぶい青年に、じぶんがどんな影響を及ぼすかを観察して楽しむためです……女なら、誰だって……程度の差こそあれこういう戯れをしますとも。まあ残酷な遊びですよねェ……ウフフ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る