第3話 共に時を刻む

 遠藤とはお互いの誕生日を一緒に過ごせなかった。


 クリスマスケーキも一緒に食べられなかった。


 外で会うこともなかった。


 会いたいときに会えるとは限らなかった。


 言いたいことも言えなかった。


 聞きたい言葉も聞けなかった。


 でも、私は遠藤から連絡が来たら、都合のつく限り彼の家に行った。


 ご飯抜きで急いで来た私のお腹が鳴れば、遠藤は何も言わずに美味しいクッキーや紅茶を出してくれた。


 英語が苦手と言えば、分かりやすい言葉で説明してくれた。


 身体が冷えていれば、自分の身体で温めてくれた。


 生理痛で辛くても言えなかったときは、スマホで「彼女 生理痛 して欲しいこと」と検索しているのがちらっと見えた。その後珍しくおろおろした遠藤は、優しくできることをしてくれた。


 どんなに可愛い子に告白されても、「好きな子がいる」と断っているのも知っていた。それが誰かは聞けなかった。


 バレンタインの前に「私がチョコあげたら迷惑かな?」と聞いたら、「チョコより、何より、抱き締めてくれたら嬉しい」と言われた。その日は遠藤を抱き締めて寝た。

 それから毎年同じ質問をすると、同じ答えが返ってきた。バレンタインの前以外の日は、いつも遠藤が私を抱き締めて寝た。


 早めに止まった私の身長、どんどん伸びた彼の身長。

 丸みをおびて、メリハリがついた私の身体、日焼けをして、ほどよく筋肉がついた彼の身体。


 会うたびに大人に近づき、格好よく成長する遠藤にどきどきが止まらなかった。


 彼に見合う女性になりたくて、勉強もダイエットも頑張った。男の子に告白されることもあった。


 彼の家に行くときのために、可愛いパジャマや下着を揃えた。


 でも、

 初めて彼の家に来たあの日以降、彼の手が私の服の中に入ることはなかった。


 どんなに強く抱き締められても、抱き締めても、私と彼の唇が重なることはなかった。


 この関係性に名前がつくことはなかったし、お互いの感情を伝え合うこともなかった。



 どうしても不安で、遠藤に一度だけ聞いたことがある。

「私って遠藤くんの…なに?」


 彼は私を後ろからぎゅーっと抱き締めて、

「こうやって触れて、ずっと一緒に眠りたいひと」


 と私の耳元で囁いた。


 遠藤が「ずっと」という言葉を使ったので、それで私は満足して、いつものように心地の良い眠りに落ちた。



 この眠りがいつまでも続けばいいのにと思った。

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