第49話 ファンタジー世界


 モモとリリーが料理支度を進める中、俺は鍋の入っていた革袋を不必要なためストレージに仕舞おうと手に取る。


(あれ? まだ中に、何か入ってるぞ?)


 手応えに疑問を抱いた俺は思考し、そのまま片手を革袋の中に入れる。ごそごそと手を動かすと、筒状のような物体を見つける。握って取り出すと、それは黒味が強い焦茶色の液体が入った細長い瓶だった。


(まさか!?)


 驚愕するように思考した俺は、直ちにコルク栓のような瓶の蓋を開けて匂いを確認する。


(ニンニクの、いい匂いがする)


 目を閉じた俺は、思考しながら幸せな気持ちになる。


「よし! 今日は焼き肉にするか!?」


「焼肉!」


 声を上げた俺は尋ね、鋭くこちに振り向いたモモは万歳しながら笑顔で叫んだ。俯き加減のリリーは体を打ち震わせている。


「こ、こんな場所で、焼肉を食るなんて…」


「あっ。何か…、ダメだったか?」


『バン!』


「贅沢です!」


「な、なんだ。そういうことか…」


 声を絞り出すかのようにして話し始めたリリーは、途中で言葉を詰まらせた。俺は叱咤されるかと覚悟しながら尋ねた。テーブルを両手で叩いたリリーは、鋭く顔を上げながら真剣な眼差しで俺を見つつ声を上げた。胸を撫で下ろした俺は思わず呟き、リリーはモモと一緒に折り曲げた両腕の手をグーにして激しく上下に揺らし始める。


「ちょっと、大袈裟じゃないか?」


「そんなことありません! 冒険者は、こんな場所で生肉なんて食べませんから!」


(なんか…、苦労してそうだな…)


 2人を見ている俺は少し呆れながら尋ね、満面の笑みを浮かべているリリーがそのままで返事を戻した。俺は思わず同情の念を抱きながら思考しつつ苦笑していた。


 献立が決まった俺達は、食材を切り分け始める。それを済ませたあと、俺は風呂の、モモとリリーは2人でテントの準備を始める。テントは、モモは俺の、リリーは自分の初心者用冒険者セットの中から用意する。


「リリーは、風呂はどうしてたんだ?」


「お風呂は、濡らしたタオルで体を拭いていました」


「そうか」


(異世界だし、そんなものか)


 木の様なサンゴに天幕を取り付けている俺は、その事を思い出して尋ねた。リリーは返事を戻し、俺は相槌を打ちながら思考した。


「何を、しているのですか?」


 テントの準備を終えたリリーが、俺の様子を物珍しそうに見ながら尋ねた。


「シャワールームを作ってるんだ」


「こんなところでシャワーですか? ん~、まだちょっと、寒くありませんか?」


「初めはちょっと寒いが、これぐらいなら体を洗ってるうちに温まるよ」


「でも、シャワーを浴びたら、体がまた冷えませんか?」


「シャーを浴びたら、体はもっと温まるさ」


「水なのにですか?」


「お湯なのですが?」


「「?」」


 作業を進めている俺はそのまま返事を戻し、少し驚いた様子のリリーはこちらに歩みながら二度尋ねた。俺は当然のように返事を戻し、リリーは渋い表情で尋ねた。俺は再び同様にして返事を戻し、近付き終えたリリーは足を止めて尋ねた。俺は作業の手を止めてリリーを見ながら尋ねた。見つめ合う俺達は、互いに首を傾げた。


「お湯ですか?」


「ああ。流石に水だと寒いからな。リリーは、水派なのか?」


「お湯は沸かすのが手間なので、水ですが…」


「「?」」


 リリーは何か言いたげな様子で掌をこちらに差し出しながら尋ね、返事を戻した俺は作業を再開しつつ尋ねた。リリーは返事を戻しながら言葉を詰まらせた。気にした俺はリリーに視線を移す。リリーはこちらを見つめている。見つめ合う俺達は、再び互いに首を傾げた。


(さっきから、なんかおかしいぞ?)


 話しが噛み合わないと思考した俺は、手を止めてリリーに向き直る。


「水魔法で、お湯を作らないのか?」


「水魔法で、お湯が作れるのですか?」


「「?」」


 俺は尋ね、リリーも尋ねた。見つめ合う俺達は、又しても互いに首を傾げた。


(見せた方が早いな)


「ちょっと、手を出してくれ」


 思考した俺はそう伝えた。リリーは腕を差し出し、俺はその少し離した上側で掌を下に向けて広げる。そのあと、俺は魔力を掌に集めながら頭の中で分子運動のイメージを起こす。


【ウォーターボール】


 イメージを鮮明にさせた俺は、魔法を使用した。掌からリリーの腕に向けて程好い温度のお湯が落ち続ける。リリーは大きな2つの瞳を更に大きく見開く。


「暖かいです! こんなことが、できたんですね!」


 リリーは興奮しながら歓喜の声を上げた。どうやら、このことを知らなかったようだ。リリーの後方のテントがごそごそと動いている。モモがそこから這い出て、こちらに向けて歩いて来る。


「お兄ちゃん。何してるの?」


「ん? リリーがお湯を出せることを知らなかったみたいだら、やってみせてたんだ」


「ふーん」


 モモは俺達の様子を見ながら尋ねた。俺はそのまま返事を戻し、相槌を打ったモモはこのことに興味がない様子で横を向く。


「ねーねー。リリーも一緒に、シャワーを浴びる?」


「えっ? そっ、そんなの、いいのですか?」


「うん! 一緒に入ろ!」


 話し始めたモモは、声を掛けながらリリーを見つつ窺うように首を傾けて尋ねた。リリーは戸惑いながら尋ね返し、モモは嬉しそうにして返事を戻した。


「モモさんも、お湯が出せるんですね~」


「出せないよ」


「ええっ!?」


 リリーはどこか羨ましそうに話した。モモはあっさり話し、リリーは驚きの声を上げながら折り曲げた片腕を胸に寄せつつたじろぐ。


「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!」


(やっぱり、賑やかなのはいいな)


 リリーは慌てた様子で話し、俺は2人のやり取りを楽しみながら思考した。リリーはその場で姿勢を正し、右腕を前に伸ばして掌を下に向けて広げる。


「んんん~…」


 目を閉じたリリーは、眉間に皺を寄せながら唸り声を漏らしている。そのまましばし経過し、リリーは目を見開く。


【ウォーターボール】


 魔法を使用したリリーは、そのまま流れ落ちる水を左手で触れる。


「これでは、シャワーだと風邪を引いてしまいますね」


「大丈夫だよ。それは、お兄ちゃんに任せればいいから」


(うんうん。魔法を使い続けるのは疲れるけど、2人を見てるのは楽しいからそれぐらいは頑張らないとな)


 リリーは落胆したように話し、モモは明るくそう伝えた。リリーはモモの話に驚いたように動きを止め、俺は楽し気に頷きながら思考した。


「えええっ! ルーティさん! いつも、モモさんと一緒にお風呂に入ってるんですか!?」


「入っていないぞ! 俺は天幕の外からお湯を出してるだけだ!」


「あっ…。ごめんなさい。そうなんですか…」


「はあ~。いいさ。で、どうする? 一緒に入ってくれるなら、こっちも助かるが」


 動き始めたリリーが突然大声で失礼なことを話した。気分を害された俺は思わず声を荒げた。声を漏らして謝罪したリリーはそのままシュンとして肩を落とし、溜息を落とした俺は希望を伝えた。リリーは何故かもじもじし始める。


「覗かないですよね?」


「当たり前だ!」


 リリーが再び失礼なことを話し、俺も再び声を荒げた。


「ねっ! 一緒に入ろ! あったまるよ!」


「わ、わかりました。それなら…、お願いします…」


「やったー!」


 空気を読んだと言って良いのか、モモは嬉しそうにリリーの両手を握り、左右に揺らしながら話した。恥じらいを見せるリリーは小さく頷き、モモは声を上げた直後に服を脱いで全裸になる。


「きゃっ!」


 リリーは顔に手を当てながら顔を真っ赤に染め上げつつ声を上げた。そのあと、リリーはそのままあわあわし始めるが、俺はその肩の上に両手を乗せて動きを止めてリリーを力強く見つめる。


「モモのことを、頼む…」


「…!? わ、わかりました!!!」


 俺は懇願し、リリーは気持ちを汲み取ってくれたためか、大きく頷きながら力強く返事を戻した。


 こうして、モモとリリーは一緒にシャワーを浴びることになった。





「きゃっ! そこは…」


「おおー!」


「モモさん。そこは…、ダメです! きゃっ!」


「おっきいー!」


 俺がシャワーの準備のために天幕の近くで腰を下ろして焚火を見つめていると、中からリリーとモモの楽し気な会話が届いた。


(何か遊んでるな…。まあ、少し気になるが…、俺は見た目は15だが中身は30過ぎのお兄さんなんだ。これぐらいでは、動じないぞ)


「「きゃっ!」」


『バサッ! ビタン!!! ドスン!! カラカラカラ~』


 俺がそのまま思考していると、突然、背後から2人の悲鳴が届いた。そのあと大きな物音と共に桶が地面を転がり続ける。


「何だ!? モンスターか!?」


 俺は声を上げながら慌てて立ち上がりつつ背後に振り向いた。視界には、地面に落ちた天幕と、全裸で目を丸くしながら尻もちを突いているモモと、同じく全裸で両足を折り曲げて両腕を万歳に伸ばしてうつ伏せに倒れているリリーの姿が映る。


「びっくりしたー」


 モモは目をパチクリさせながら話した。驚いたのみで、怪我はしていない様子だ。しかし、砂のないサンゴの地面に顔面を強打したであろうリリーは、ピクピクと痙攣を起こしている。


(顔面、痛そうだな…)


「だ、大丈夫か!?」


 心配した俺は少し顔を引きつらせながら尋ねた。


「イタタタ。石鹸で、滑っちゃいました…」


 体を起こしたリリーは、鼻頭を抑えながら話しつつその場にペタン座りする。


(こ、これは!? いったい、どういうことだ!? リリーの生まれたままの姿が、はっきり見える!?)


 俺は思考しながら非常に戸惑い始める。視界には、リリーのキョトンとした表情と、きめ細やかな素肌と、たわわに実った2つの果実が大きく揺れ動く様子が鮮明に映る。


(あり得ない! 砂の地面にうつ伏せに倒れたにも拘らず、体にはその砂が一切付いてない!?)


 思考した俺は、状況分析のためにリリーの体を隅々まで観察し始める。リリーは俺の不思議がる様子に気付いたのであろう。俺の視線のあとを追うように、自分の体を確認し始める。やがて、俺とリリーは視線を合わせる。リリーは徐々に顔を真っ赤に染め上げてく。


(この異常事態に、気付いたみたいだな…)


 思考した俺は、姿勢を正しながら両腕を組んで片手を顎に添える。リリーは涙ぐんでいる。


「ふ、ふ、ふ…、ふえーーーーーん!!!」


 リリーは夕焼け空の星を見上げながらダンジョン内に美しい声を轟かせた。


 アマのダンジョンの三層は、正しくファンタジー世界だった!!!



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