肆「戦争(壱)」
》九月十四日 二十一時三十二分 大阪港南・埋立工事現場 ――
夏が来て、そして夏が終わった。
夢を見ているような毎日だった。
昼はフレデリカと一緒に踊り、夜はフレドリクと一緒に踊った。
二人のフレデ
千歳が課す勉学や習い事もちゃんとこなした。
千歳の
「ラァーーーー~~ッ!!」
夜闇の中で、渡瀬式
フレドリクが用意して
歌唱をソナー代わりにして索敵し、フレドリクが身を潜めているショベルカーの影へ飛び込むも、
「――えッ!?」
『君は死んだ』
背後から、声。
首筋に刃を潰したナイフが添えられる。
「そんなッ!? 何でッ!?」
『ソレだ』
フレドリクが、地面に転がる小さな機械のようなものを示す。
『デコイ。人型を思わせる音を発している』
「ズルい!」
『ズルなものか。歌で索敵してくる
「……分かった」
♪ ♪ ♪
「フレディは何でそんなに強いん? 歌唱も使えへんのに」
フレドリクは
『そうでなきゃ生きていられなかったからだ』
フレドリクの肩にしがみつく犬だか猫だか善く分からない
結局、未だに彼は正体を明かして呉れずにいる。
「フィリップ・マー○ウかよ!!」
『何?』
「いや、今年出たばかりの探偵小説で、『強くなければ生きてはいけない。優しくなければ生きている資格がない』って
『安心しろ歌子』
「うん?」
『優しくなくても、生きる資格はある』
フレドリクはきっと、冷たく微笑んでいる。
『でなくば俺は、当に死んでいる』
「そ、そう……」
『それに、俺には希望があったから』
「希望?」
『歌だ』
「歌……」
『希望にすがり、夢を見るように生きて来た。だが、その夢ももうすぐ終わる』
「どういうこと?」
♪ ♪ ♪
翌日、中羅はその戦端を閉じた。
中華民國の、事実上の無条件降伏であった。中華民國は一切合切の領土を失った。
歌子を始めとする女学生たちは、教室で、あるいは訓練場で、その校内放送を聞いた。
♪ ♪ ♪
さらに翌日、新星
満州並びに日本國國民の即時國外退去命令を発した。
――満羅開戦である。
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※レイモンド・チャンドラーは一九三二年、四十四歳の時に世界恐慌で職を失い、推理小説を書き始め、ほどなく成功した。
この世界では西
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