第8話 僕と罰ゲームとピンク

「うぅ……もう、お婿に行けない……」

「おいおい。いい加減覚悟を決めてろよ達也。あと、嫁ぎ先は決まってそうだから心底するな」

「わかってるけどさぁ……」


さめざめと泣きながら、現在僕は女装姿で順一と自宅の玄関にいます。


この格好でこれから外に出ると思うとなかなか勇気が出せずにいて、順一から再三早く行こうと急かされてはいるけど……ハッキリ言おう。


今から女装して親友と歩くことになる僕はただの罰ゲーム的なものでしかないので辛い!


「似合ってるから大丈夫だよ」

「嬉しくないよ!」


女装が似合う男とか嫌すぎる!


そっちの趣味の人をバカにしてはいないし理解がないわけではないが……僕はそんな趣味はないし、何よりこんな女々しい男を瑠璃さんがどう思うか……いや、でも瑠璃さん結構男前だからある意味今さらなのかな?


「ほら、行くよ?」

「ちょっ、引っ張らないでー!」


結局うだうだしていたら順一に無理矢理連れてかれて僕は外へと出てしまった。




「うわー、スゲー美形。隣の彼女かな?」

「あんな地味な女がイケメンと一緒にいるなんて凄いわねぇ」


周りから聞こえてくる声に赤面しかない。


いつも順一と一緒にいれば性別は違うが同じような内容の台詞が聞こえてはくるが……女装してイケメンな親友と一緒に歩いているとか、もはやそっちの方面の展開にしか思えない。


Bから始まるとても腐敗した妄想での出来事の気配しかない。


「いやぁー凄い注目浴びてるね。達也可愛いから」

「注目浴びてるのはお前のせいだよ……」


いまいちピンと来てない親友は、そんなことを呑気に呟くけど僕としては一刻も早くこの時間が終わることを切に願っているだけだ。


しばらく町を歩いていると、順一が背後を警戒し始めた。


「どうかしたの?」

「付いてきてるな。多分いつものストーカー女だ」


小声で訪ねるとそんな返事が返ってきて僕はチラリと一瞬だけ視線を後ろに向ける。


人混みでわからないが……この中にいるのか?


「とりあえず……どこか人通りの少ないところに行こうか」

「それって逆に危なくない?」

「でも、捕まえるなら誘き出さないとダメでしょ?」


順一の正論に言葉に詰まる僕。


仕方ないか。


それで一刻も早くこの時間が終わるなら従うべきだろう。


「わかったよ。で、どこに行く?」

「そうだな……とりあえず露骨な路地裏とかだと怪しまれるから、公園にでも行って、俺が一瞬外して様子を見るっていうのでどうだ?」

「まあ、いいけど……それで大丈夫?」


結構危ない予感しかしない。


自慢ではないが荒事には滅法弱い僕。


平均的な男子高校生に武力は期待できない。


おまけに、相手は瑠璃さんの部下(かはわからないけど)で烈兎隊の幹部とかいう話だし、喧嘩とかなったら圧倒的にヤバイね。


「いざとなったら通報でもなんでもして助けるよ。それに……どうやら俺よりもお前を守れる人物がいるみたいだしね」

「それってどういう……」

「いいから行こうか」


意味深な順一に連れられて近所の公園に足を運ぶ。

休日にしては人気のないそこは不気味なくらいに条件にピッタリで……どことなく嫌な予感がした。


「じゃあ、俺は一旦離れるから、すまんがよろしく」


公園に着いてから、僕がベンチに腰かけると順一はそう言って颯爽と去っていった。


何だろう……なんか泣けてきた。


休日に女装して親友と町を歩いてから公園に放置プレイ……涙なくてしは語れないほど、後にトラウマになりそうな案件だ。


しばらくぼーとしていると不意に周囲に何人かの女性が集まってきた。


見た目は完全に遊んでる……というかまんまヤンキーなその方々は僕の目の前に来ると僕を逃がさないように周囲を囲った。


「ちょっと付き合ってもらおうか」


ボケーとその状況を見守っているとその一番リーダーらしき人物が僕に言った。


この人数差じゃ勝ち目はないし、逃げれないので黙って頷いて着いていく僕。


順一を探してはみるが、周囲にはいない。


見捨てられたってことはないだろうが……どうしよう?


そんなことを考えていたらそのまま連れてかれたのは、これまた都合よく人通りのない路地裏。


もしかして、僕はまんまと乗せられたのかな?


休日にしてはこの辺りの人通りが少ないし、最初から向こうの手のうちだったとか。


だとしたら順一は間に合わないかもしれないけど……まあ、最悪殺されなければ多少の怪我は我慢しよう。


男だとわかれば心の傷と社会的なステータスが落ちるだけだ。


……あれ?どう転んでもマイナスじゃね?


そんなことを考えていたら案内されて路地裏につれてきたメンバー意外の人物が現れた。


パッションピンクの派手派手な染めた髪が印象的すぎるその女性は僕の前に立つと激しく僕を睨み付けた。


「あなたね!私の佐藤くんにちょっかいかけたのは!」


……どうやらこの人がストーカーさんらしい。



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