第2話 僕と彼女のデート
「タツ!今度は音ゲーやろ!」
「す、少し休ませてよ……」
はしゃいでいる瑠璃さんに僕はへとへとになりながらも答える。
場所はゲームセンター。
さっきまで、エアホッケーやらバスケやらの、体力ものが続いて、体力的に自身がない僕はすでに限界を迎えていた。
確かに途中クレーンゲームやらメダルゲームやらもあったけど……僕はすこぶる運動神経が悪いのでハッキリと言ってすでにグロッキーだ。
そんな僕の様子を見て瑠璃さんは「仕方ないなぁー」と言って近くの自販機でお茶を買ってきてくれた。
なんだかんだで瑠璃さんはめちゃめちゃ優しい人なのだ。
「ありがとう瑠璃さん」
それを貰って一口飲む。
うん、やっぱり日本人は緑茶だよね。
ペットボトルだけど、心底お茶とは良いものだと思うよ。
「タツ、お茶貸して」
ホッと一息ついていると、瑠璃さんからそう言われた。
首を傾げながらも、言われた通りに僕はそれを瑠璃さんに手渡す。
受け取った瑠璃さんは極めて自然な動作で一口飲ん……えぇ!
「ちょっ……瑠璃さん!?そ、それ……」
「うん?どうかしたの?」
キョトンとこちらを見詰めている瑠璃さん。
いやいやいや、だって今のって……
「ぼ、僕の口が付いたのなんて汚ないでしょ?別の買ってくるからそれ渡して」
「嫌だ!」
まさかの拒否!?
「それに、汚くないよ?だって、愛するタツが口つけたものだし……って、もしかして間接キスに照れてるの?」
「うぐっ……それは……」
正解なので言葉に詰まる。
そんな僕に瑠璃さんは、「ふふ」と笑ってから愛おしいものでもみるような視線を向けて言った。
「タツは本当に可愛いね~」
男としては可愛いと言って言われるのは嬉しいよう恥ずかしいような複雑な気分だけど、瑠璃さんにはかなわないとわかっているので素直に赤面しつつ顔を反らして僕も抵抗する。
「瑠璃さんの方が可愛いよ……」
「――!?あ、ありがとう……」
瑠璃さんが珍しく若干詰まったように答えたのをみて、僕は内心で密かにガッツポーズを取る。
まあ、実質的には引き分けなのだが……
「ちょ、ちょっとトイレに……」
気まづい沈黙を破るように僕は立ち上がって一度体制を立て直しにかかる。
蛇口を捻りながらため息をつく。
「瑠璃さんと付き合い初めてもう1ヶ月か……」
普通の彼氏彼女の関係がわからないからなんとも言えないけど……僕と瑠璃さんは割りと清い交際なんだと思う。
モテない僕はもちろん初めての彼女だからなんというか、どうすればいいのかよく分からずに後手に回ってしまう。
瑠璃さんも一応僕が初めての彼氏らしいけど、結構なんていうかこう……ぐいぐいくるので、戸惑ってしまうこともある。
けど、それが嫌ではない自分がいる。
「よし」
顔の赤みもひいたのでもう大丈夫だろう。
僕が瑠璃さんの元へ戻ると、瑠璃さんはさっきと同じ場所にいたのだけど、何人かのチャラい男に囲まれていた。
も、もしかしてナンパか?
「瑠璃さん」
命知らずな連中を僕は無視してそのまま瑠璃さんに声をかける。
……と、瑠璃さんはそれまで不機嫌そうな顔を一転させて笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「タツ!」
「ごめん。また遅くなって……」
「大丈夫だよ!」
僕が来たことが嬉しいのか笑顔でそう答えてくれる瑠璃さん。
やっぱり可愛いなぁ……
「んだよ、彼氏づれかよ!」
「なあ、そんな地味なのよりも、俺らと遊ばねぇか?」
そんなことを考えていたら、チャラい男たちがそんなことを言い出した。
地味ですみませんね……奥ゆかしい控えめフェイスと呼んで下さいな。
……って、そんな事言ってる場合じゃないか。
チラリと隣の瑠璃さんを見る。
おおう……これはあれだ、笑顔だけど切れてる感じだよ。
「ねぇ、誰のことを地味って言ったの?」
瑠璃さんが穏やかに……でも迫力のある言葉でそう問いかける。
空気を読んでくれよ、チャラい人達……!
「誰って、その隣のやつだよ」
終わった……僕の願いは叶えられずにチャラい人達は自ら破滅の道へと乗り出してしまった。
「ふふふ……」
笑顔で僕の腕に抱きついている瑠璃さんだが……僕は瑠璃さんの体の柔らかさを味わうよりも、これからチャラい人達におこるであろう惨劇に、冷や汗を流していてそれどころではなかった。
「地味ねぇ。それなら……あなたたちをゴミみたいにズタズタにしてもまだ同じことを言えるからしら?」
「あぁん?なに言ってやが……」
ガシッと、先頭のチャラ男が言い切る前に何人かの屈強な男がチャラ男達の周囲を囲っていた。
そのあまりの絵面に耐えられずに僕は隣でにこにこしている瑠璃さんを見て癒されようと――
「みんなー!殺れ」
「「「ウッス!姐御!!!」」」
――したけど、無理なので視線をそらした。
うん、だって、今の瑠璃さんの顔マジで怖かったもん。
そのままチャラい人達は屈強な男達(瑠璃さんの部下らしい)に連れてかれてしまった。
僕は心の中であの人達に冥福を祈った。
御愁傷様です。
「タツ!じゃあ、今度こそ音ゲーやろうよ!」
そんなことを考えていたら、先程までの惨劇を無かったような感じの態度のいつも通りの瑠璃さんに腕を引っ張られた。
「はいはい」
苦笑しつつも、僕もそれに従う。
なんだかんだ裏では今惨劇がおこっているだろうけど……まあ、いつものことなので気にしない。
そうして、ダンスゲーを楽しんでプリクラを取ってから今日のデートは終わった。
瑠璃さんはゲーセンに行くと、最後には必ず僕とプリクラを取ってから移動するので、今日ので何枚目なのかわからないくらいだ。
まあ、瑠璃さんに笑顔で「タツとプリクラ撮りたい!」って言われたらNOとは言えないよね。
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