5/13

 今回の転職をするか否かで迷ったことが一つだけある。会社が根本的に気に入らないのはその通りだが、自社から来ている人で一人だけ気になる人物がいた。

 彼はいわゆるプログラミングスクール上がりなのだが、別な意味でやばい。


「これやっといて」

「どうやればいいのか分かりません」

「それってどういう意味でわからないの?」

「どういうコードが”正しい書き方”なのか教わっていないので分かりません」

「Sさんがまだ新人なのはみんな知ってる。動くようには書けるんでしょ。まずは書いてみて」

「変数名はどうすれば“正しい”んですか? どうなっていれば“正しい”んですか?」

「……」


 ある時客先経由でNさんより指示があった。繰り返すが中間業者からは一人も人員を出していないので、客先の本来の準委任契約先である中間業者から再委任先である我々に指示がくるわけではない。

「ここの販売してるパッケージ、何だか品質がとても怪しいからザードさんとかみんなでちょっと叩いてテストしてみて」

 私は早速自席に戻ってプログラムを起動してみた(当時はまだリモートワークではなかった)

「うは、Nさん、0入れただけで落ちますよこれ」

 その時Sさんは隣で見てたのだが、こんなことを言い出した。

「何で動かす前から0を入れると落ちるってわかったんですか!?」


 さらにテストを続けているとこんなことがあった。

「ここを押すとファイルダイアログが開いて、ファイルを選んで、メイン画面から確定ボタンを押すと処理が走る、と。それなら……まずはファイルを選んで、それからエクスプローラーから今のフォルダを開いてファイルを削除して、アプリケーションに戻って確定、と。あら、落ちた」

 その時もSさんが隣で見ていたのだが、今度はこう言い出した。

「何でそんなことを思いつくんですか!?」


 ぶっちゃけ、Sさんはこのままではやばい。何とかしてあげる必要がある。それが終わるまで自社を去るべきではないのではないか。そういう思いが少しだけあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る