チケットくれ!

ウニ軍艦

チケットくれ 1

 -1-


 複雑な心境を拗ねさせないほどに空は青々とした大海原で、華や草はソレを見ているからこそ根を伸ばし、上へ上へと背を伸ばすのだと考えた。

 そんな心には、白紙にその文章を書くだけで口が緩んでしまうような人間、つまり我が似合っているのだ、と考え、想像に浸り、勝手に上機嫌になるのだった。

 この人間、高み高み、は望む。しかし意外と面倒は臭い。そんな自分は嫌いだったし、反省だって意外と幼いうちに覚えた。苦労という漢字も物事を思い出しながら書けるし、例えるなら強靭な細い糸といったところ。

 そもそも抽象的表現に惹かれたのも幼かった。だからこんな人間になったのだろうが、別に終わりのスイッチは恐怖と共に握っているし、誰でも怨めるし意外と気晴らしも上手い。たまに真っ暗の箱の中へと入りたくもなるがそれも稀、一見して普通だ。

 多分、毒々しい沼から見上げる青空だって綺麗なんだろうと思う。


「………」


 ――と、まぁ少し難しそうな文章が書かれた小説を読んでいる。

 いや、眺めている。

 読む気になんかなれない。心が張り裂けそうだ。

 だって既に、時間切れではないか!


「人生終わった……」


 その人気ぶりで現在この国を轟かせている、ZONEというバンドが日本にはいる。

 朝から「人生終わった」と呟くこの人間は、ZONEの大ファンなのだ。

 来週、彼女達のライブがある。

 

 《200人限定ライブ!》


 その招待券は抽選に当たった者のみが手にすることができる。


 彼が応募したか、だって?

 教えてあげよう、応募したに決まってる。


 その抽選の発表が、今日の朝十時なのだ!

 もし見事に当選していれば自宅に電話がくることになっている。

 

 じゃあ、今、何時か教えてあげよう。


 十一時時だ。


 つまり、そう、彼は当選しなかったのだ。


「……終わったんだ。俺の人生は夢か幻だったんだ」


 読みもしないくせに買った小説を壁に投げつけた。

 悔しい。悔しい。

 彼の傍には優しく慰めてくれる冬美ちゃんもいなければ咲音クミもいない。そしてパラサイトイヴのアヤっちもいなければFF12のパンネロもいない。


 なんて情けないんだ


「――だが!!」


 と、彼は自分のベッドから起き上がり叫ぶ。

 そう、諦めるわけにはいかないのだ!


「俺に会えないなんて! ZONEのみんなが悲しむに決まっている!」


 自己中パワ-全開!

 今日もこの勝手な思い込みで突っ走る!


「誰か、知り合いに当選者がいないか調べよう。真面目に頼めば譲ってくれるかもしれない」


 ちなみに、

 彼なら10000%譲らない。


「まずは母ちゃんに聞いてみるか」


 彼は急いで母親がいるであろう居間へと走った。


 展開が早いなんて気にもしない!

 文章が雑なのすら全く気にならないスト-リ-内容だ!

 じつは作者も! 真面目に書く気がない! なんてこった。パンナコッタ。


 母親「あら、タケシおはよう」


 あ、彼は、山田タケシという名前である。

 じつによい名前だ。じつに面白い。じつに。


 タケシ「母ちゃん!!」


 母親「な、なに?」


 タケシ「この辺りで! 例のZONEのチケットが当選した人知らないか!」


 このチケットの話題はTVでもよく取り上げられているために母親も知っているはずだ。

 今朝のニュ-スのトップを飾っていても全く不思議ではない。


 母親「あ~、確か朝のニュ-スで言ってたわね~。5000万件の応募があったらしいわよ」


 タケシ「そ、そんな小学生のギャグみたいな数字だったなんて」


 当選は200人に対して5000万、さすがZONE!

 この国の誇りだ!


 タケシ「でも、それじゃあ流石に、この辺りに当選者なんて……」


 母親「それが、お母さん一人だけ知ってるっていったらどうする?」


 タケシ「え? ま、まじか?」


 母親「うん、さっきね、偶然道端で聞いちゃったの」


 タケシ「だ、誰?」


 母親「じゃあ肩叩きしてくれる?」


 タケシ「3兆回する」


 母親「殺す気か」


 タケシ「頼む! 教えてくれ!」


 母親「じゃあ、今日はと呼びなさい?」


 タケシ「3兆回呼ぶ」


 母親「うざったい」


 タケシ「頼む!! この通り!!」


 根気負けしたのか、母親は言う。


 母親「……シゲル君よ」


 その名前に反応するタケシ


 タケシ「え? シゲル? まじ? 本当?」


 彼の心に微かな希望の明かりが燈った。

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