クリスマスプレゼント from the dead
安田座
プロローグ1
わたしの名前は当子、あたりこでは無くて、とうこと読みます。二十四歳のOLです。
この名前のせいで、顔は当たりなのに、おつむは外れだとよく言われてました。顔が当たりの方が嬉しかったから気にもしなかったけど。
いや、実際、顔もそこまで当たりでは無いですけどね。
今日は、わたしの人生にとって最も重要で大事な日、そして、わたしの子供の頃からの夢の叶う日……になるはずだった日。
「いただきま~す」
わたしは、いつもの様に朝ご飯を食べる。
うちは、朝食はご飯派だから、ごはん、お味噌汁、焼き魚、海苔など、普通の日本の食卓って感じです。
でも、わたしは、朝食にはパンとコーヒーとサラダとか、そういうのにずっと憧れ続けています。
でも、これはお母さんには言った事がありません。自分も忙しいのに、毎朝欠かさずに作ってくれる事に頭が上がらないから。それに、十分美味しい。
でも、わたしが結婚したら、パンの朝食にするって心の中で決めています。
でも、もうすぐそうなるはずだった、その小さな決心は、
一カ月前に、期限のわからない先送りとなりました。
一カ月前、結婚の約束をしていた彼が……事故で亡くなりました。
一カ月後の今日が結婚式の日なのです。
彼を見送ってから、性格なのか悲劇のヒロインにもなれない私は、日常を普通に過ごしています。
今日も、これから会社へ行ってきます。 ずいぶん前に出した休暇届けは、全て取り下げにしました。
ふと、朝ご飯を食べてるときにテレビで流れていたCMの事を思い出した。
今、乗ってる電車の扉の上の方に貼ってある広告、それが目に入ったからなのだけど。
技術の進歩はすごくて、死者を蘇らせる事ができるとか、最近よく見るCMです。
実際は、死んだ人が生き返る訳じゃないんですけどね。
記憶を電子化して保管できて、必要があれば脳に書き出せる。
そして、人のクローンを作ることもできる。
その二つを組み合わせて、できるのだそうです。
でも、記憶の電子化の方は安いんだけど、脳への書き込みが馬鹿高い。難易度が違うとか言ってるけど、足元見てるよね、これ。
有名人とかお金持ちの御老人が利用することが多いらしいけど、それはわからないでもない。
他に、記憶では無く知識を入れたりするのは法律で禁止されてるけど、裏でやられているとかなんとかいう噂も。
そして、もっと高いのがクローン、よく知らないけど。
だから、死んだ人を生き返らせるのは、あまりやってる人いないみたい。
わたしだって、できれば彼を生き返らせたいですよ。そんな大金があれば。
だから、こんな技術さえ無ければ、悔しい思いを追加されなくても良かったのにと思う。科学の馬鹿野郎~。というか普通にCMやってんじゃねぇ~。
それでも、彼の記憶だけは電子化して持ってるの。 どうこうできるわけでは無いけど…………。
その日の帰り道、駅の改札を出た時に宝くじの売り場が目に入った。
その時、なんとなく思い出した。
彼に言われて初めて買った宝くじ……ありゃ、どうしたっけ。
お前の名前で買わないのは、持ち腐れとか言われた気もする。
でも、買った価値はあった。新婚後の夢、マイホームとか車とか旅行とかいろいろ皮算用して二人で喜んでたっけ。 楽しかったな~。
あ、思い出した。 思い出箱の中だ……。
帰ったら、確認して見ようかな。 でも、あの箱開けれるかな……わたし。
そんなことを考えていたのは全く無意味で、お風呂に入って出たら、すぐに寝むくなってしまった。
今日は、周りの人達があまりにも気を使ってくれるので、逆にものすごく気を使ったからか疲れてたみたい。
明日やろう……。
今日は、金曜日。
金曜日の朝ご飯の焼き魚は鮭だ。
お母さんの趣味か、普段はアジが多いのだけど、金曜日は鮭固定だ、海軍カレーみたいなものかと勝手に思っている。
いつもの様に会社へ行き、昨日に近いくらい気を使われ、それにも少し慣れたのか昨日ほど疲れずに帰って来た。
寝る前に目覚ましをセットしていて、なんか思い出した。そうだ、宝くじ。
見てみようかな……スマホですぐに結果わかるし。
ベッドに入ろうとしていた体を翻し、クローゼットを開け、上の方の棚に乗せてある箱を取り出す。
思い出箱、どこかにそう書いてある訳じゃないけど、そう呼んで普段は見えない場所に置いていた。
彼からのプレゼント、一緒に行った場所のチケットの半券、印刷した写真、なんとなく拾った貝殻、彼の記憶の電子データの入ったメモリカード……そういうものにはあまり焦点を結ばない様にしながら、けっこう下にあった宝くじを引っ張り出した。
あの時は、抽選とか考えもせずにこの箱に入れたけど、五十枚もあると、そのまま引き換え期間を過ぎたら少なくとも五枚の当たりが無駄に……。
ああ、感傷的な心境のつもりだったけど、無駄とかいう単語が出て来たのは、良い傾向なのかもしれないなぁ。涙も心配したほど出ないし。
前を向くきっかけが無駄という単語なのは、なんかかっこ悪いけど。
まぁ、いいや、結果を見よう。
さっそくスマホで、結果を検索して見た。
一枚づつコードを読み込む方法もあるけど、せっかくだから番号を一枚づつ見比べて見る。
五十枚連番だから、大きいのはすぐにわかってしまうから、小さいのから見た。
二等までに当たったのは五枚、そうですもちろん全部末等です。
そして、最後のお楽しみ、確実に無いと分かってても夢だけは見てしまいます。
あれ、やっぱり涙出てるかな、番号を見間違ってるかな、目をこすってから見直す。……当たってるんじゃ。
組も……あってる。 当たってる? なんで? 金(かね)曜日だしねって、関係ないし、うう、混乱する。
ああ、そうだ、夢ってやつね、さっき、あのまま寝たのか……いやいや、起きてるし。
当選金額って、連番だし、前後もあるよね、怖いなぁ、あ……に、に、二十憶…………知ってたけど……ね……
起きてるつもりのわたしは、そのまま気を失ったらしい。
ジリリリリ……目覚まし時計の音が聞こえる。
朝だ。 あ、しまった、こんなとこで寝てたのか。季節によっては風邪を引いててもおかしくないぞ。
お? なんか手に握ってあるものに気付いた。
あ、そっか、昨日……って、そんな悠長な場合じゃ無い。 もっかい確認しよう。 今度は、コード読み取りでやってやる。
あ、あ、あ、あ、あ、あた、あた、当たって……る。
……、あ、危ない危ない、意識を持っていかれるとこだった。
でも、次の瞬間、「よっしゃー」とガッツポーズをしていた。
あ、お金って本当に怖い、一瞬、それしか見えなくなった。意識を完全に支配されてた。
これは、彼との未来のための一等なのに……。
……よし、決めた。
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