第35話 里帰り
俺は、この人だけには幸せになって欲しかった。なのに、どうしてこんな事になってる?
「リック、ありがとう。サキも一緒だったのね、こんな綺麗な女性が3人も、リックってもてるのね」
「ミリカです」 「セフィーヌと申します」
「そ、そんな事より、どうしてダドウサの女王なんて。バンタムさんは何をしていたのです。父上が決めたのですか?」
「リック、王族に生まれたからには、婚姻に私の意志が入らない事など、覚悟していたことです」
「しかし、こんな国になど、僕は父上を許せません」
「違うのですよ、リック」
「ではどうして?」
「リックが死んだとされてから、ドロンお兄様が力を持ち始めたの」
「くっ、ザニンの奴か」
「そう、バンタムはリックの事もザニンがやったと言っていたわ」
流石はバンタムさんだ。俺が生きている事も、お見通しだったしな。
「ブラットお兄様は何をしていたのです?バンタムさんは?」
「ブラットお兄様は、ベルリア王国の婿に」
畜生、ていよく飛ばされたか。
「バンタムは、父上と母上が半ば幽閉状態で、人質を取られた感じで動けないのよ」
「お姉様は何故ダドウサに?」
「ガウルスト王国を落とす為によ」
ん、待てよ。そうすると、……
「テレストラ王国も、ここに攻めて来るのですね」
「その通りです」
「た、大変だわ」
ザニンの奴は絶対に許さん。俺は虫を偵察に飛ばした。
よる遅くエミューズお姉様が俺を訪ねてきた。
「どうしましたお姉様?」
「リック、1つ気になる事が有るのです」
「気になる事ですか」
「ええ、ダドウサ王国の者が捕まった時、つまり私達が捕えられた時に宮廷魔道師のグラウギルはいましたか?」
「グラウギル?」
「グラウギルこそがあの人を化物に変える事を考えた者なのです」
「そうなのですか?……解りました、後で捕えた者達を確認してみます」
ーー
「それで良いのかリック殿?テレストラ王国の王子と聞いておるのだが」
「構いません。今、実権を握っているのは、ブブセル王国のザニンと言う者です」
「なるほど、そう言う事でしたか」
「敵は今、進軍していて、2日後に到着するでしょう。テレストラ・ブブセル・ベルリア三国で大軍となっています。僕達も協力します、叩くなら今です」
「かたじけない」
ーーーー
さすがに母国の兵士達は殺したく無いので、メインの虫は雷のメイドウジュと毒虫のザージムになる。
ガウルスト王国の兵士は、戦うと言うより敵の捕縛係りだ。
敵の姿が見えてきた、前情報では10万と言う事になっている。ザニンの奴、ダドウサ王国がしくじったので、気合いを入れて来たな。
このまま進むと、川の所でぶつかるな。敵の斥候部隊も、ガウルスト王国の軍勢を見つけた様だが、まさか空に俺がいるとは思うまい。
川には細い橋が1つ、ガウルスト軍が回り込まれてかこまれる心配は無い。ついている。
「これより攻撃を開始する」
「私達は高みの見物ね」
メイドウジュとザージムが、一斉に連合軍に向かって急降下する。羽音に気付いて、兵士達が上を見上げる。
「なにっ」「うぎゃ」「ぐぇ」
ドミノ倒しの様に、前から順番にパタパタと倒れていく。その様は観ていてとても美しい。
10万の人を殺したら俺も、某有名小説の主人公の様に、魔王になれただろうか?
と、しょうもない事を考えていたら、最後の一列が倒れている所だった。
ザニンの奴は早々に逃げた様だ。コスイ奴だ。
「このまま、テレストラに行くよ」
「リック様の故郷ですね」
「早く行って見たいわ」
ーー
「緑が有って美しい所ですね」
「うん、森が多くて、虫取には良かったね」
「そこです?リックらしいわね」
「懐かしいもんだな」
「サキはここの勇者なんですね」
「勝手に召喚されたのよ」
魔物の像のダンジョンも、もうすぐでクリア出来る所まで進んでいる、サキが帰る日も近い。
城に着いたが、兵士の数は少なかった。ほとんどが出兵したのだろう。
サキの言う通り、懐かしい。1階の広間を抜け、2階に上がる。
「誰だ!」
「僕の顔を忘れたのかい?ザニン」
「お、お前、リックか?何で生きてる?そんな訳がない。ダンジョンの底だぞ」
「俺を誰だと思っている。貴様などに倒せる訳が無いだろう。
「くう」
「後でお前は始末してやる。暫くそこで立っていろ。おっと、口もふさいでおこう」
「……」
「リック、俺って言ってたわよ」
いけね、興奮してた。
「そうだった?それより上に早く行こう、ドロン兄様を抑えないと。父上、母上が心配だ。それとドロンお兄様のスキル"覇王"は精神攻撃の一種なんだ、みんなは危ないからアイテムBOXの中に入ってて」
王の間は5階にある。
「リック様、やはり生きていらしたのですね」
あっちゃ~、1番会いたくない人に会っちゃったよ。
「バンタムさん、貴方とは戦いたくない。そこを退いて貰えませんか?」
「条件が有ります。このままではテレストラは滅びます。リック様が国王になり、この国を立て直して下さい」
「う~ん、もっと良い方法が有るんだけどな。エミューズお姉様とバンタムさんが婚姻して、バンタムさんが国王になれば良い。それとも、他の男に抱かれた姉など、見るのも穢らわしいですか?」
「ば、馬鹿な事を言うな。どんな事があろうと、私のエミューズ様に対する熱い気持ちが、変わるはずが無い」
「だそうですよ、お姉様」
「バンタム……」
「エ、エミューズ様、な、何でこんな所に」
「では、そこを退いて下さい。
「えっ、お、おう」
「師匠、お幸せに」
「サキお前、あの時、嘘を言いおって。許さんぞ」
「バンタム、良いでわ有りませんか」
「は、はい」
ザニンがこずるいと言っても、ドロン兄さんが簡単にいうことを聞くのはおかしい、何かあるな。
「リックか、生きていたのだな」
「ドロンお兄様、正気に戻って下さい」
「俺は正気だ。我に跪け!」
「僕には効きませんよ」
「ふっ、ダンジョンの底から帰って来たのだ。お前には、不思議な力が有るのだな」
「そうです、こんな風に。
「うくっ」
何か怪しい所はないか、見つけないと。ザニンがスキルを使ったか?いや、そんなスキルは無かった。
残るは魔道具か?首飾りにブレスレットか。待てよ、ドロンは汗をかいて痒くなると言ってブレスレットはしなかったはず、これだ。
俺には腕が無いので、サキに切ってもらうか。アイテムBOXから出てもらう。
「ドロンお兄様、ちょっと失礼します。サキ、そのブレスレットを切って、外してくれないか」
「分かった」
居合い抜きの構えから、剣が2度振られる。ブレスレットは2つに割れ床に落ちた。ドロンは意識を失った様だ。
よし、後は父上と母上を解放するだけだ。
下の階に降りると、バンタムさんによって解放された父上と母上がいた。
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