95話「プレゼントと感想」

「柊さん、これ」

「はい、麗華ちゃん」


 柊さんの誕生日当日がやってきた。

 俺と楓花は、昼休みに買っておいた誕生日プレゼントを手渡す。


 と言っても、悩んだ挙句買ったのは漫画なわけで、本当にこれで良かったのか不安になってくるのであった。


「え? あ、ありがとうございます」


 まさか俺達がプレゼントを用意しているなんて思っていなかったようで、柊さんはその目を丸くして驚いていた。


「漫画、ですか?」

「あー、その、違うものも考えたんだけど、あまり変なの渡しても気を使わせちゃうかなぁとか思って……」

「そう! 麗華ちゃん絶対普段こういう漫画を読まないだろうから、新たな世界の幕開けのために選んだんだよ!」

「そうですか。ありがとうございます、うふふ」


 楓花はともかく、やっぱり失敗だったかと不安になっていると、柊さんはおかしそうに笑い出した。

 その表情は誰が見ても嬉しそうで、このプレゼントが間違いではなかったことが伝わってくる。


「すいません、では、さっそく帰ったら読ませていただきますね!」


 そして嬉しそうに、プレゼントした漫画を胸元にぎゅっと抱きしめながら微笑んでくれるのであった。


 そんな様子に、俺は楓花と一応は成功かなと顔を見合わせて笑い合う。

 ちなみに、一緒にお昼を食べていた晋平はというと、当然何も用意してなかったことに焦りながら、持っていた飴を柊さんに贈呈していた。



 ◇



 それからは何事もなく、一日を終えた。

 部屋で一人くつろいでいると、スマホのバイブが鳴り出す。


 何だろうと思い確認すると、それはまさかの柊さんからのメッセージだった。


「頂いた漫画、さきほど読み終えました! すっごく面白かったです!」


 それは、今日柊さんにプレゼントした漫画のお礼と感想だった。

 ちなみにプレゼントしたのは、野球を題材にしたスポコンものの漫画のため、柊さんが読んで楽しめるかどうかという不安しかなかったのだが、楽しそうに感想を送ってくれる柊さんはすっかりハマってしまったようだ。


 普段は清楚で、落ち着いた和風美人という感じの柊さん。

 でも今は、その漫画の面白かったポイントで盛り上がってくれており、そんな柊さんとするメッセージのやり取りは俺にとっても嬉しいことであった。


 自分の好きな作品を、こうして共感して貰える喜びを感じながら、そのままこの日はずっとメッセージでやり取りをしたのであった。



 ◇



「あ、おはようございます!」


 次の日、駅前を通りかかると、柊さんが手を振りながら駆け寄ってくる。


「良太さん! 昨日は遅くまでありがとうございました!」

「あー、いや、こっちも楽しかったから」


 そして柊さんは、昨晩ずっと感想などを連絡取り合ったことに、微笑みながらお礼を告げてくれたため、俺もこちらこそとお礼し返す。

 そんなやり取りもちょっとおかしくて、俺は柊さんと同時に吹き出すように笑い合った。


 元々は、四大美女の一人の柊さん。

 入学式のその日、俺はとんでもない美少女が入学してきたなと驚いたことを思い出す。

 それでも今は、こんな風に打ち解けて笑い合える仲になれていることが、何だか不思議で、何より嬉しいことだった。


 ――まぁ、こうして柊さんと知り合えたのも、楓花のおかげなんだけどな。


 そんなことを思いながら楓花の方を向くと、何やら不満そうに膨れている楓花の姿があった。


 それはもう、フグのように見事にぷっくりと膨らんでいる楓花。

 その理由も何もかも分からない俺は、どうしたと声をかける。


「昨日、何があったのよ」

「え? 昨日?」

「麗華ちゃんと良太くん、昨日何してたの!?」


 我慢していたものを爆発させるように、そんな文句を口にする楓花。


 ――なるほど、仲間外れにされたと思ったのか。


 この前の買い物では、ちょっと大人びて見えたのだが、こういうところは子供のままだよなと俺はつい笑えてきてしまう。

 でも、こんな子供っぽさも楓花の良いところであり、全てが大人になってしまったらそれはどこか寂しい――。


 だから俺は、そんな楓花に何てことない漫画の話だと説明しようとすると、俺より先に柊さんが口を開いた。


「ごめんなさいね楓花さん。昨晩は、良太さんにいただいた漫画の感想について、メッセージでやり取りしてまして」

「何それ、わたしのは?」

「もちろん読んでますよ? でも楓花さん、返信なかったので……」

「え? そんなはず……あっ」


 自分のスマホを見て、少し青ざめる楓花。

 どうやら柊さんは、俺と楓花どちらにも感想を送ってくれていたようだ。

 しかし、どうせ自分の部屋で干物の限りを尽くしていたのであろう楓花は、そんな柊さんからのメッセージに今の今まで全く気付いていなかったようだ……。


 それでは、俺と柊さんのことに文句を言える立場ではなく、むしろ自分が悪い側に回ってしまった楓花……。


「あー、その……ごめんなさい……。―—お、面白かったのなら、よしっ!」


 そして楓花は、物凄くバツが悪そうな表情を浮かべながらそう宣言すると、我先に歩き出し勝手にこの話を終わらせたのであった。


 そんな身勝手な楓花に、俺は柊さんと顔を見合わせながら、やれやれと笑い合うのであった。



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