第66話「初めての共同作業」

「本当に何もなかった?」

「しつこいなぁ、何もないってば!」


 帰りの車の中。

 如月さんと楓花はこうしてずっと言い合いをしており、隣に座る星野さんはずっとその話を聞きながらうんうんと力強く頷いていた。

 そして柊さんは、助手席からそんな三人の様子を見ながら楽しそうに微笑んでおり、何だか行きの時より距離が近づいている彼女達の様子に、俺は自然と笑みが零れてきてしまう。


 柊さん家の別荘で一日過ごし、特に何があったわけでも……なくはないけれど、その分この一日で色々得られるものが沢山あったように思う。

 彼女達が自然な感じで接し合っているその姿が、何より物語っているのであった。


 そして最寄り駅に到着した俺達は、車から降りて柊さんのお母さんにお礼をする。

 運転や別荘、BBQの準備と、本当に今回お世話になった。


「どうも、色々とお世話になりました。とても楽しかったです」

「あらあら、いいのよ全然。これからも、麗華のことをよろしくお願いしますね」

「はい、もちろんです!」


 上品に微笑む柊さんのお母さんは、とても同年代の娘を持つ母親だとは思えないほど本当に綺麗で、こうして話しているだけでも少しドキドキしてきてしまう。


「何緊張してるの」

「鼻の下伸びてます」

「駄目ですよぉ……」

「うふふ、わたしも大人になったら、母みたいになるかもしれませんよ?」


 そして四大美女と呼ばれる美少女達は、口々に俺に対しておちょくるようなことを言って、一緒に笑い合っているのであった。



 ◇



 丸一日楽しんだ俺達は、駅で解散となった。

 星野さんは家が同じ方向なのだが、これから寄って行きたいところがあるとのことでそのまま駅でお別れした。


 時計を見るとまだお昼の十二時前だったため、このまま真っすぐ帰るのもちょっともったいない気がした俺は楓花に声をかける。


「どうする? 昼飯でも食ってくか?」

「うん、行く!」


 どうやら楓花も同じ考えだったようで、嬉しそうに即答する。

 とりあえず、駅前の飲食店が立ち並ぶエリアを歩いていると、道行く人の視線がこれでもかってぐらい楓花に集中しているのが分かった。


 ――そう言えばこいつ、四大美女なんだよなぁ。


 そう、楓花に限らずさっきまで一緒にいた女の子達は全員、この町では超が付く程有名な美少女達なのだ。

 そんな四大美女と、まさか一つ屋根の下寝泊りしただなんて、とてもじゃないけど話せないよなと俺は改めて自覚する。


「ねぇ、あれがいい」

「あれってなんだよ」

「だから、あれよ」


 楓花の指さす先を見ると、そこはこの辺では結構有名な喫茶店だった。

 何であそこなんだろうと思いながら、更に楓花が見つめる視線を辿ってみる。


 するとその視線の先には、有り得ない大きさのパフェのサンプルが展示されていた。


「いや、まさかとは思うが……」

「二人で食べれば大丈夫だって! 行こっ!」


 そう言って楓花は、俺の制止も聞かずに腕を引っ張ると、そのままその喫茶店の中へと入ってしまったのであった。



 ◇



 目の前に置かれる巨大なパフェ――。

 実物を見ると、こんなに大きかったのかと震えてくるレベルだ。


 何が悲しくてこんな巨大パフェを昼ご飯にしなければならないのかと思ってると、楓花は嬉しそうにその目をキラキラと輝かせながらパフェを写真に収めていた。


「凄い! でかい!」

「そうだな……」

「一体これ一つで何キロカロリーあるのかね!?」

「さぁな、太るぞ」

「わたし太らない運命の元に生まれてるから大丈夫でーす! さっ、食べよう良太くんっ!」


 すっかりご機嫌な楓花は、そのままスプーンでアイスの部分を掬ってパクリと咥えると、それはもう幸せそうに唸り出す。

 そんな楓花の美味しそうな反応効果は絶大で、まぁたまには甘いものもいいかと思えてきた俺は、諦めてパフェを一口食べてみる。

 すると確かに、大きくて大味かと思えば味はしっかりパフェで普通に美味しかった。


「美味しいでしょ!?」

「ああ、美味いな」

「だよねー! 最高ぅ!」


 俺も美味しいと返事をすると、それが嬉しかったのか楽しそうに微笑む楓花。

 そんな無邪気に微笑む楓花を見ていると、確かに美少女なんだよなと思えてくる。


 もしこれが妹じゃなくて、自分の彼女なんだとしたら……って、何を考えてるんだろうか俺は……。


 思わず変なことを考えそうになる自分を戒めながら、俺はとりあえずアイスが溶けてしまう前にまずは目の前のパフェを攻略する方が先決だと、急いでパフェを食べ進めることにした。



 ◇



「うう、ぎもぢわるい……」


 真っ青な顔をしながら、ぐでっと背もたれにもたれる楓花。

 パフェは残り五分の一まで減っているが、二人で食べても食べきれない量だった。


 俺も若干気持ち悪くなりながらも、残すのは悪いからと自分のペースで何とか食べ進める。

 もう、感覚的には一年分のクリームを一度に食べた気分だ……。


「……よし、食べる」

「おい、大丈夫か?」

「今はこれを食べき切るミッションの途中よ。クリアするまで帰れないから!」


 なんだそれと思ったが、この戦い、楓花は一歩も引くつもりはないようだ。

 だったらあとは自分で責任持って全部食えよと言いたくもなるが、流石に女の子一人でこの量は無茶があるから俺も食べ進める。


 そしてそれから十分以上かけて、何とかパフェを食べ切ることが出来た。


「……お、終わったぁ」

「そうだな……」


 満腹で、ただただ気持ち悪い……。

 しかしそれでも、食べ切ったことで何とも言い難い達成感のようなものがあった。


 そして目の前で瀕死状態になっている楓花は、すっかりやつれた顔をしながらも、ふっと微笑んで一言呟く。



「は、初めての共同作業、だね……へへ……」



 そんな、あまりにも残念すぎる妹の謎発言に、俺は思わず吹き出してしまったのは、最早言うまでもないだろう……。



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