第7話
泣いた。
いい大人が表情を崩して、滝のように涙を流して泣いた。
「ちょっと、なんで貴方が泣いているのよ、エディ」
私の話を聞いたエディはすぐに涙を流した。私はカバンを漁り、ハンカチを取り出そうとした。ハンカチを見つけた時、ハンカチはキレイに折ってあるのではなく、膨らんで入っており、先ほど妹のクリスティーヌから渡された母の形見のイヤリングが入っているのを思い出した。私はイヤリングをハンカチから取り出す。カバンの中で光る母の形見を見ると、私も母に甘えていた時期のことを思い出して、少し目頭が熱くなった。
「これで、涙を拭きなさいよ」
私はエディにハンカチを渡すと、
「すいません・・・・・・チーーーンッ」
目を拭いたエディは鼻もかんだ。私は「マジか」とびっくりしており、それに気づいたエディがハンカチを返そうとするけれど、「まだ使うでしょ」と手を振って拒んだ。まったく、今日は昨日のように使用人の格好ではなく、王直属の親衛隊の制服を着こなしているというのに、まったく情けない。
そう、エディは王からの勅命である調査を行っている。それを私は手伝っているのだ。婚約の話を進めている際に、私はバイデルと話をしたり、彼の家を訪れた際に違和感を覚えた。具体的に変な物を見つけたり、変な話を聞いたわけではないのだけれど、心に引っ掛かる物があった。そんな時に彼に出会った。初めは、エディのことはまったく信じられなかったけれど、彼の真剣な眼差しと彼から貰った情報と私が屋敷で見たり聞いたりした情報が少しずつ結びついていった。そして、彼は勅書を見せてくれて、そこには王族しか持っていない印が押してあった。
「チーーーーンッ」
・・・・・・あのハンカチはもうエディにプレゼントしよう。
エディは洗って返すと言ってくれたけれど、私は「大丈夫」と伝えた。すると、彼は自分のポケットに私のハンカチを入れた。
「あっ」
すると、エディのポケットからロケットペンダントが落ちてフタが開いた。エディは時々そのペンダントの中身を見ていたけれど、何が入っているか尋ねてもいつも教えてくれなかった。だから、中身が気になっていたのだが、どうやら女性の写真が入っているようだ。どこかで見たような・・・・・・。
「失礼」
そう言って、エディは慌ててペンダントを仕舞い、何かを覚悟したのかポケットの中でペンダントを力強く握って、泣くのを止めた。
「傷心だとは思いますが・・・・・・国のため、王のため、そして、国民のために今から動き出していただきたいと思います」
まだ赤い目をしているけれど、その瞳、その口調は国を想う人だった。
「今から・・・ですか」
大雨は嫌いだ。
だって、お母様が無くなった日も・・・・・・こんな雨だったのだから。
「ええ、今からです」
そう言って、エディは私の両手を握る。触れられて初めて、自分の手が震えているの気が付いた。皮が厚くて逞しく、そして温かい手だった。
「この大雨であれば、あんな離れにある書庫への関心は薄くなるはずです。今が、チャンスなんです」
「大丈夫です、行きましょう」
私も彼の手を握り返す。そうだ、私は大丈夫。雨の中だって歩いてこれた。私たちは再び大雨の中を歩く。
「マッチを濡らさないように注意してくださいね、エディ」
「えぇ、もちろんです」
私たちは今度は傘を差さずフードを被って雨の中を歩いた。
「ねぇ、エディ?」
「はい?」
雨で声が聞こえずらかったのか、彼の顔が私に近づく。近づいた彼の唇が雨のせいか潤っており、色っぽかった。
「王の命令であれば、こんなこそこそ暗闇に紛れるようにしなくてもいいんじゃ」
そう尋ねると、エディは遠い目をした。遠いと言っても、雨で遠くなんて見えない。
「世界は暗闇だった」
「え?」
「光っていうのは、暗闇から現れる物さ」
「どういう・・・」
「さっ、着いたよ。慎重に行こう」
いつの間にか目の前にはバイデルの家の門があり、私たちはバイデルの家の庭の離れにある書庫に続く階段へと向かった。
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