第7話 神様と<開かずの宝箱>

 さて、気を取り直して、宝箱の解錠に挑戦だ。私が宝箱の前に移動すると、エレオノールと大男が付いて来た。この大男、顔に似合わず面倒見がいいな。ピッキングツールも貸してくれたし。


「ルーちゃんは、鍵開けは得意なんですか?」


「まぁな」


 私はこれでも、風の神であると同時に、盗賊の守護神でもある。この手のことは得意だ。他にも旅人や旅商人の守護神だったりする。


「さて、どれに挑戦するか…」


 宝箱は全部で3つある。赤、青、緑、と色も違う。装飾もそれぞれ異なっているな。


「もしよかったら、これに挑戦して頂けませんか?」


 エレオノールが指差したのは赤い宝箱だ。装飾が最も豪華に見える宝箱である。


「これは私たちのパーティ【赤の女王】が見つけた宝箱なんです……」


「ほう?」


「と言っても、見つけたのは先々代の初代【赤の女王】の時代なんですけど」


 どうやら【赤の女王】というのは、受け継がれているパーティ名らしい。


「そう言えば、宝箱の中身はどうするんだ?全て【赤の女王】の物か?」


「そうだ。中のお宝は全て発見者の物になる」


 なるほどな。中のお宝が何かは分からんが、きっと良い物だろう。【赤の女王】は、これから私が世話になるパーティだ。手土産代わりに、これを解錠してやるのも悪くない。


「では、これに挑戦しよう」


「宝箱には罠が仕掛けられてる場合もある。気を付けろよ」


「がんばってくださいね!応援してます」


 エレオノールの笑顔に、私のやる気はぐーんと上がった。


「でかいな。どれどれ」


 近くで見る宝箱は大きかった。私の体がすっぽり入ってしまうようなサイズだ。


 宝箱を見ると、中央に鍵穴が開いていた。箱のサイズに相応しく、普通よりも大きめの鍵穴だ。


 私は鍵穴の前に座り込み、ピッキングツールを広げ、解錠に取り掛かる。


 カチャカチャと鍵穴に突っ込んだピッキングツールを動かすこと1分程。鍵は恐ろしく難解だった。今まで解錠できた者がいないというのも頷ける。このまま続けても解錠はできるが、時間が掛かってしまいそうだ。エレオノールをあまり待たせるのは可哀想だろう。そこで私は少しズルを使うことにした。


「ふぅー」


 私は鍵穴に顔を近づけて、鍵穴を吹く。鍵穴に風を送り込むことによって、鍵の構造を丸裸にしようとしたのだ。風の微細な流れも把握できる、私ならではの方法だろう。鍵の構造が分かれば後は簡単だ。作業時間がグッと減る。エレオノールをあまり待たせずに済む。


 ガチャリ


「ん?」


 鍵の構造が分かり、あとは解錠するだけだと思ったら、鍵がひとりでに開いてしまった。どうやら、風の精霊たちが気を利かせて解錠してくれたらしい。


「今の音!」


「まさか、そんな。いくらなんでも、早すぎる…!」


 エレオノールと大男にも鍵が開いた音が聞こえたみたいだ。途端に色めき立つ。


 しかし、大男の言うように、風の精霊のおかげで、不自然なほど早く解錠できてしまった。はてさて、なんと言い訳したものか……。


「いやー、まさかこんなに早く開けれるとは。運が良かったな。うんうん。運が良かった、運が良かった」


 私は運が良かったで押し通すことにした。


「嬢ちゃん、それはいくらなんでも……」


「運が良かったのだ!」


「おう……」


 大男が納得いかなそうな顔をしているが、こういうものは言った者勝ちだ。私はなにを言われても運が良かったで通すつもりである。


「ルーちゃん!」


 エレオノールが私に抱きついてきて、ピョンピョンと跳ねる。


「開かずの宝箱を開けてしまうなんて、ルーちゃんすごいです」


 エレオノールのおっぱいもすごい。ぽよんぽよんと柔らかく弾むおっぱいが顔に押し付けられ、私はご満悦だ。でへへ。


「これこれエルや。まずは本当に開いたのかどうか確認してみよう」


 エレオノールの胸を存分に堪能した後、私はエレオノールをたしなめる。


「そ、そうですね。わたくしったら、ついはしたないマネを…」


 あれだけ堪能したのに、エレオノールが私から離れる時は、ちょっと切なかった。やれやれ、エレオノールは魔性の少女だな。足るということを知らない。




「はてさて、何が入っているか楽しみだな」


「宝箱の中身は、宝箱の外観に比例すると言われています。これだけ立派な宝箱ですから、絶対に良い物ですよ」


 たしかに、ここにある3つの宝箱は、どれも豪華な装飾が施されているが、この宝箱は、その中でも一際豪華だ。エレオノールの話が本当なら、中身も期待できるな。


「では、開けるぞ」


「はい!」


 エレオノールと2人で一緒に宝箱の蓋を開ける。


「まぶしっ」


「きゃっ」


 蓋を開けると、宝箱の中からまばゆい光が溢れだした。眩しくて目を開けていられないほどだ。


 光は3秒ほどで治まった。一瞬、罠の類かと思ったが、私が罠を見落とすわけがない。体調にも変化はないし、きっとこういう仕様なのだろう。


「ほう!」


「これが…!」


 まだ少し白く染まる視界に、宝箱の中を映す。


 宝箱の中には、全部で5つの品が収められていた。


 まず目を引くのが、一本の槍だ。穂先が大きく、鏃のような形をしているのが特徴だ。その下には百足の咢のような刃が2つ付いている。大きく分ければ、これも十字槍と呼べるだろう。柄には、百足が柄に巻き付くように彫られている。全体的に百足をモチーフとした槍のようだ。


 後は大きめの革のポシェットに、白地に赤の刺繍が入ったロ―ブ、丸められた羊皮紙、黒い紐だ。前二つは分かるが、後ろの二つは何なんだ?


「これは何だ?」


「さぁ何でしょう?」


 私は丸められた羊皮紙に手を伸ばす。エレオノールは無難にポシェットに手を伸ばしていた。


 羊皮紙に触れた瞬間、閃くように羊皮紙の正体が分かる。頭の中に情報を流し込まれ、無理やり分からされる感じだ。


 羊皮紙の正体は魔法の地図だった。自分を中心に、1キロ四方の範囲を地図として書き起こすらしい。ダンジョンでしか使えないらしいが、これが本当なら、ダンジョンの攻略に大いに役立つだろう。


「これは地図だったぞ。そっちは何だった?」


「……」


 エレオノールの反応が無い。ポシェットを見つめたまま固まっている。


「エル―?」


 私はエレオノールにもう一度声を掛ける。次も反応が無かったら、胸を揉んでみよう。


「ッ!」


 エレオノールが私の言葉にビクリと体を震わせる。ちぇ。


 エレオノールは弾かれたように私を見ると、ポシェットを指差しながら、口をパクパクさせる。言葉にならないらしい。その目は限界まで見開かれ、青い宝石の様な瞳が落ちてしまいそうだ。


 普通なら不細工に見えるような表情をしても、エレオノールの美貌に陰りは無かった。むしろ可愛らしく見える。美人って特だね。


「ま、ままま、ま!」


 エレオノールが「ま」しか言えなくなってしまった。


「まままーま・まーまま?」


 私もエレオノールに付き合ってみる。


「ちが、違います!こここ、これ!」


 エレオノールが私の目の前にポシェットを持ってくる。革作りの、飾り気のない武骨なポシェットに見える。これがどうかしたのか?


「マジックバッグです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る